やぎさん郵便
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やぎさん郵便

草間さかえ

読まれることのなかった恋文の行き先

ネタバレ
2021年8月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 友人に借りた本に挟まれていた恋文(差出人の名前のある後半1枚)がきっかけで出逢った学生•廣瀬清高と小さな出版社を営む花城青司は逢瀬を重ねるようになります。花城もまた、学生時代に最強の恋文をもらい人生が狂ってしまったという不思議な巡り合わせがありました。件の恋文は実は廣瀬に宛てたもので、差出人である同級生の有原岑生は恋文を取り戻そうとして花城の部下•澤陣一郎に捕まってしまいます。恋文の前半1枚は澤が持っていたのでした。終戦間も無い東京の冬空の下で、それぞれの人生にカタをつけながら恋をする青年達に、人を喰ったような教授や絵師、どこまでも明るい花街の女性たちが脇を固める完成された作品です。
『あめふり』幼い廣瀬が祖父宅で見た一瞬の花城の姿が描かれる情緒溢れる一編。
『かごめかごめ』上京する汽車でたまたま一緒になった男につけ込まれた有原が、廣瀬に好意を抱くようになるまでの短編です。
『東京行進曲』先代社長の下で働き始めたばかりの花城と、まだ学生だった澤とのお話。戦争と世情に追われて、崩れ落ちる橋を前へ前へと駆け抜けざるを得なかった時代が描かれます。
『ゆりかごのうた』出征した先代社長への花城の想いと、花城への澤の想いが交錯するひと時のお話。
『続 東京物語』花城の出版社で一緒に働くようになったその後の4人が楽しめます。
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