ラムスプリンガの情景
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ラムスプリンガの情景

吾妻香夜

川から大海に出たニジマスは川には戻らない

ネタバレ
2021年8月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 冒頭、一人の青年が故郷と青春に別れを告げるシーンから始まります。舞台は80年代のアメリカ、酒場にいたアーミッシュの青年を客と勘違いしたオズは青年を自室に招き入れ、間違いに気付きます。その青年•テオはラムスプリンガ(300年前の暮らしを守り続けるアーミッシュが成人に当たり世間を経験する期間)を迎え、初めて町に出て初めて酒場に入ったのでした。酒場で働きながら客をとるオズは、ブロードウェイを目指していたものの夢破れて、この町に流れ着いたのでした。厳しい戒律の中で育った天真爛漫で素直なテオは真っ直ぐにオズを信じて仔犬のように懐き、一緒に酒場で働くうちに二人は惹かれ合うようになります。けれどもラムスプリンガを終える時、外界から隔絶されたアーミッシュとして生きるのか、故郷と家族を捨てて外の世界で生きるのかの二者択一を迫られるのでした。
ベトナム戦争やアポロの月面着陸など、アメリカの光と影の延長線上にあった80年代を背景に描かれる、まるで映画のような、情緒溢れる美しさと余韻に満ちた作品です。
スピンオフ『親愛なるジーンへ』では、NYでブロードウェイを目指していた若き日のオズがちらりと姿を見せてくれています。ぜひ併せてラムスプリンガシリーズの作品世界を堪能して下さい。
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