サンドリヨンの黒い革靴
」のレビュー

サンドリヨンの黒い革靴

井上ハルヲ/斧田藤也

作者お得意の、喘ぐ攻めと煽る受け

2021年8月19日
灰原歩(あゆむ)はある晩、電車内に脱ぎ落とした革靴を拾ってくれた男・火神尊(ひかみたける)と出会う。お礼がてら彼を酒飲みに誘い…?

この作品は「聞くBL小説」シリーズのCDドラマの書き下ろしシナリオを作者自らがノベライズした67ページの短編。トラックごとに主役が入れ替わるCD同様*、ノベルズも章節ごとに視点が切り替わりテンポよくお話が進みます。
(精神や肉体疲労時のエロス補給に即効性ある気がします)
タイトルにサンドリヨンとあるからといってシンデレラをなぞる展開かと予断をもって読むのは禁物です。サンドリヨンという言葉はあくまでも、目の前で見知らぬ美人が靴を脱ぎ落としていったその状況を火神がロマンティックに表現したもの。火神がその言葉を使ったことで、サンドリヨン=灰原が火神好みの容姿だったんだなぁとか、きっかけを作ってまた会いたいと瞬時に認識したんだなと読み手が理解できる仕掛けなのです。よって、灰原にシンデレラ的な不幸なあれこれなど期待(?)するべからず。
ところで小説やコミックスを読みながら設定や展開に「そんなことってある?」ともし思った時には(滅多にありませんが)、自分という枠組みにとらわれているサイン点滅かもと思うことにしています。はたして自分という人間はこの世のありとあらゆる森羅万象やら、約79億もの人類の性格と言動すべてを統計的に知っているつもりかよ、と。事実は小説より奇なりと言い、事実の方が想像の上をいくのだから小説が自分の枠を超えているくらいで、いちいち驚くなかれと。「ありえない」は案外「知らないだけ」かも知れませんよね…。

*CD販売元のst-noix ブリリアントプリンレーベルのサイトでサンプル音源をたっぷり視聴できます。自分は「歩…」と切羽詰まった火神の声が聴けるサンプルNo.7が好きだなぁ
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