一帖とはんぶん
」のレビュー

一帖とはんぶん

東藤ながる

押入れの外にある大切なもの

ネタバレ
2021年8月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ 編集者の獅子尾は、新しく担当になったベストセラー作家穴熊収一の家へ原稿を取りに行きます。豪邸の中はゴミ屋敷状態で、さらに穴熊は押入れから現れ、獅子尾を押入れに招き入れ、自分はずっとこの一帖半のスペースに暮らしていると言います。次に気が付くと翌朝で、獅子尾は押入れの中で穴熊に抱かれていたのでした。10年前から獅子尾に恋しているという穴熊は、獅子尾の為ならどんな文学賞も獲ってみせるが、担当を降りるなら原稿は他社に渡すと告げます。半分は脅され、半分は自分のキャリアの為に担当を続ける獅子尾ですが、大家族で面倒見の良い元ヤン気質もあり、なんだかんだと絆され流されてゆきます。さらに穴熊と結婚するのだと言うおませな従弟の少年•千紘か登場し、獅子尾は穴熊の知らなかった面と、10年前の自分達の出逢いとを知ります。
外の世界が怖くて、傷つき傷つけるのが怖くて押入れから出られない穴熊と、好きな相手を大切にできないと思い込んでいる獅子尾、そんな二人が一緒にいることを選ぶまでが描かれます。押入れ、引きこもり、執着愛と、湿度の高い要素が揃っているのですが、カラッと軽やかに進行してゆきます。
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