月影
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月影

SHOOWA

表題作はBLと思わない方が良い!!

ネタバレ
2021年8月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ 表題作「月影」とその続編「逃げ水」がそれぞれとても秀逸です。時代背景や社会環境が丹念に調べられており、時代や出自に翻弄されながらも強く生き抜いた清人の悲しく苦しい、それでいて愛し愛された儚い日々を、幸せを悉く奪われながらも愛によって救われながら足掻きもがいて生きた1人の男性の人生として、目をそらさずに描ききった名作だと思います。
ただ、BL作品に分類されている以上は、読む方によっては最後のオチがNLになっているのがしんどい人もいるかもしれないなと思いました。
清人が女性に惹かれる描写が全くないまま彼の同性愛遍歴を読んできたところに、結末間際で急に異性愛と子供ですから、異性愛者の人はなんにも考えずに感慨深いかもしれませんが、同性愛者の方や、清人を同性愛者として読んでいた人はショッキングかもしれません。
恐らく清人はバイセクシャルとしての立ち位置で描かれたのかな?と推測しますが、最後の結婚は自分のためには生きられなくなった、誰かのために生きることでしか前を向けない、そんな彼を助け支えてきた女中に、恋情ではなく愛情で応える形での結婚だったのかなと思い、私はなんとか納得しました。
結婚は事実のみで、子供に対して「新たな愛を知る」とあったので、教授の愛に支えられたのと同じようにまた愛に応える形だったのかなと、そして、その愛に応えた先で新たに「父性愛」を知ったということかなと。
ただ、同性愛者であれば女性との性愛は簡単なことではないでしょうから、男性との恋愛遍歴の中で少しでも清人自身の恋愛対象に女性も含まれることを示唆するような描写があれば良かったのになと…
例え恋愛対象でなくても、愛情さえあれば清人は元男娼なので過去の経験上、女性とも性愛行為が出来るんだとしても、
そういう過去だからこそ、身近で穏やかな愛を受け入れ自ら求める愛をやめたのが、清人自身の幸せに妥協を感じて複雑な気持ちになり…そこに蟠りを覚えてしまいましたので星4にしました。
死ぬ間際にふと思い出したのは、苦しくとも心から愛した男の記憶だったので…。
どちらかと言うと、支えられる愛に応え結婚するにしても、性愛抜きの関係に留まり、自身の出自と重なるようですが、養子を育てることで子供の頃に貰っていたであろう愛を、今度は自分が新たな愛として知る…という流れなら蟠りはなく見届けられたかな、と思ってしまったりしました。
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