世界でいちばん遠い恋
」のレビュー

世界でいちばん遠い恋

麻生ミツ晃

ゆっくり進む恋を見守る醍醐味にため息

ネタバレ
2021年8月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 孤高のバイオリニストの十嘉(とおか)と重度の感音性難聴のデイトレーダー五十鈴。肩書からすると、交わることのなさそうな2人なのに、ミツ晃先生が2人の育ってきた環境を走馬灯のように、部分部分、良いカット割で織り込んでくれるので、そうかだから今こんな風に感じているんだなぁ、と人物像を2次元から2.5次元レベルに引き上げ、読み手が2人に自然に共感できるように作られているところに、先生のセンスを感じます。とおかは、島育ちで音楽会でバイオリンに出会い、バイオリンが好きで独学で弾きたいから弾いてきたのに、都会の音大に来たら聞こえるのは妬み、嫉みに喧騒とノイズばかり。そのうち、何のためにバイオリンを弾いているやら、自分が支持する先生からも今まで通りに弾くことを否定される中、難聴というハンディを抱えながら、静かに、一生懸命とおかの話やバイオリンを聞こうとし、懸命に伝えようとする五十鈴との出会いは、それまでのノイズから解放される砂漠の中のオアシスのようなものだったのでは。五十鈴の人物像も、友人の語りや本人の回想で描かれ、こちらはハンディがあることで周囲に甘えず、自力して生きよという親からの教えのもと育ってきてしまったから、甘え下手。でも、懸命に伝えようとするから表情も豊かでなんとも可愛いらしい。努力家でハンディがあることを重く感じさせない。ただその性格から人には言わない一抹の寂しさを抱えている人。まず、とおかが惹かれて迫るものの、線を引こうとする五十鈴。それでも諦めずに、五十鈴の側にいようとし、気持ちも伝えてくるとおかに、これまでにない感情を抱く五十鈴...というところで1巻終わってます。
2人が内面から惹かれていく過程が自然に描かれていて、この2人がLな関係になるのかな?と見守っていたら見事になった...!という王道BLの醍醐味を味わえたところがまずは溜息だし、重度難聴の人の感じ方や日常的なコミニュケーションの取り方も、興味深い。とおかが、五十鈴と出会って伝えたいと内面から感じて変わるところ、五十鈴と話すとき顎クイになる距離感の近さもエモい!五十鈴が29歳なのに幸せを祈らせて欲しくなる人柄で、庇護欲を掻き立てます。
レビューの高さも納得の、読んで満たされていく感覚が得られる作品です。2巻では、五十鈴にトキメキと多幸感を味わって欲しい。私はそのお裾分けをいただければ充分です!
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