夜を走り抜ける
」のレビュー

夜を走り抜ける

湖水きよ/菅野彰

夜を走り抜けたその先には…

ネタバレ
2021年8月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ スタンディングオベーションで拍手。素晴らしい愛の物語ですね。僕はとても好きな作品でした。
原作が菅野彰先生という事で、作品自体はコミックなんですが、まるで小説を読んでいるかの様でした。綴られている言葉は静かで淡々としているんだけど、癖がなくてとても秀美な表現の仕方だなあと思いました。彫塑などの美術全般に関する背景知識が僕はないからかもしれませんが、この作品の博識ある雰囲気が漂っている部分も好きです。
きよ先生の描かれる画も、良い意味で動きがあまり感じられず、表情などの変化が少ないところが、登場人物達、主に晴生のトラウマを背負った心理状態を表している様で良かったです。
一文一文丁寧に紡がれた心理描写やセリフ、ひっそりと物静かな画風、どちらも晴生の心に根付いた暗闇を忠実に描写しているなあと感じて、晴生の痛みがよく伝わってきました。最後に掛けてのシーンで、晴生がベッド上で手錠で繋がれながら虎一に見せる涙には、やっとか…と心から安堵しました。
心に負った深い傷というのは完全に消えるものではないですが、夜が怖いという気持ちを少しでも和らげてくれる相手に出逢えて良かったです。虎一の深くて強い想い、心に沁みました。宝生社長とどう示談するかの件で、互いを心から大事に思っているが故に、譲れず2人揉めて葛藤している場面も凄く好きです。美しい言い争いだ。
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