美剣士
」のレビュー

美剣士

小野塚カホリ

”時代”に生きた男たち(読み放題対象)

ネタバレ
2021年9月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 先日読んだ『燃ゆる頬』の作者さんの時代物。原作をアレンジされているそうです。初読みの時、あまりにも辛くて直視できなくて、急いでページをめくってしまったことを思い出します。今回、がんばって1ページ1ページ読み返し、泣きました。とても悲しく、痛ましく、救われず、ただただこの悲恋に胸をえぐられるのですが、読まなければ良かったとは思いません。その悲哀も含めて、美しく、素晴らしい作品だと感じています。
下級武士でありながら、剣の腕を買われ、剣術指南として城中に出入りしていた重四郎と戸山藩五万石の小姓・菊之助の話ですが、脱藩した重四郎を用心棒としていた定次や菊之助を蹂躙する三五郎親分が重要な役どころとしてかかわっています。言われてみれば、飄々とした殿までも…最初から片鱗がありました。それぞれの温度差、特に三五郎親分は生の熱が伝わるように生き生きと描かれているのが皮肉です。他の冷たさと絶望を際立たせているように思います。
語り手は、菊之助と共にいた千津。悔恨のようであり、最後の務めであるかのように、語り終えた彼女の思いにまた胸が詰まります。
もう、私の語彙や思考では伝える術がないのですが、とにかく、読み手の願いのようなものはことごとく裏切られ、菊之助の叫びも届かない残酷さが残りますが、強かさと美しさを増していく菊之助は圧巻で、一層、「時代」というものに抗えなかった悲哀と悲恋が重く深く心に残ります。
『燃ゆる頬』もそうでしたが、小野塚先生の絵、作風がストーリーにぴったりとハマっていて、魅了されます。
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