春を抱いていた afterward
」のレビュー

春を抱いていた afterward

新田祐克

春を越えて夏に至る。

ネタバレ
2021年10月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ まずは完結おめでとうございます。21年に渡る長期のシリーズ本当にお疲れさまでした。■短い逢瀬を憂い、春の日差しに焦がれて眠った冬の蝉、今生で幸せな時間を過ごしたけど春は越えられなかった。ALIVEの最後、老いない洋二くんの話題と桜の苗、常春の象徴は夏に至れない伏線だったんですね。■愛する人を置いて逝ってしまう洋二くんは勿論だっただろうけど、岩城さんには二つ大きな心残りがあった。伴侶として籍を入れる=家族になる事。一度は自分の元にやってきた、洋二くんの子供に生まれる道があった洋介くんを二人の子供にできなかった、洋二くんの血を引いた子供を残してやれなかったこと。■例えば二人の立場が逆だったとして、洋二くんがそれを叶えられたかどうか?洋子さんの難産時、スピリチュアルな体験は主に岩城さんのもので(洋二くんの様子を振り返るに)、洋介くんが二人の実の子供になった可能性は洋二くんの考慮外であったように思います。そしてもし岩城さんが先立ってしまったとしたら、激情家な洋二くんは草加のように即座に後を追ってしまったんでは…とも。考え合わせて、夏に至るまでの道は後半生の岩城さんにしか作れなかった、最愛の人と突然別れることなってしまった悲しみと後悔こそが原動力だったんじゃないかなぁと。■洋介くんは、岩城さんを支え、最期を看取り、一颯に続く子孫を残してくれました。魂は草加、洋二から巡ったものだとしても、その血筋を続けたのは洋介。祖母の養子になって香藤姓を残してくれたのも彼だった。■岩城さんが進めた同性婚法案と単精子受精技術のもとに夏空野は生まれ、「誰にも触れられていないきれいな身体で香藤と出会いたかった」という岩城さんの願いも叶えられた。初夏が一番好きな一颯も、名前からも夏空野も夏生まれですよね。春を越えて夏に至り、二人の子供を授かって恵みの秋にもきっと進んで行けるのだろうなと思っています。
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