みのりの森
」のレビュー

みのりの森

まりぱか

かけがえのない存在の欠落による波紋

ネタバレ
2021年10月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ 初読と2周目で明らかに受け取る感動の大きさが違う作品。
もちろん再読の方が広く深く感動する。ネタバレ後の方が感情移入しやすいからだ。そして見える画面上の景色が変わってくる。

加賀、白山麓の架空の村が舞台。
自死した慎太郎、置いていかれた昌典と実。
物語は幼なじみの昌典視点で進む。
友を亡くした後、2人の男はそれぞれ号泣するのだが、読み進めると泣く理由が全く違うことが判る。そこにこのお話のエモーショナルな心情の大部分がある。

親しい者を見送った側は、傷つき、悲しみ、辛く、暗く、やるせない。また会いたい、楽しく語らいたい、温度に触れたい。美味しいものを食べては思い出し、美しいものを目にしては思い出す。
その全ての感情が、昌典のたった一言、「生き返らんかなあ…っ」に集約されている。大号泣のベストポイントである。
どれだけ時間が経とうとも、どれだけ齢を重ねようとも、その思いは決して薄れることなく自分と共にあり続けるのだ。

どんなに辛くてもただ悲しみに晒されている昌典とは違い、実(ミノル)はもっと深く複雑なところで心を削っている。
後悔、と書いてしまえばたった2文字。だがその悔やみを昌典のために、慎太郎のためにと尽くす49日間が痛々しくも温かい。それで昌典は絆されてBLになっている。(途中、BLであることを忘れるくらいキャラの心情描写が素晴らしいのだ。)

逝く選択をした慎太郎は、それが一番己れにとって自然であったのだろう。
世の中には一定数、生きている事それ自体を不自然に感じている人がいる。そういう人は死を決意した途端、初めて生きている実感を得ると多く伝え聞く。
慎太郎も多分そうなのだろうと語られる端々から伺える。
慎太郎の母は逆縁の不幸を背負い、塗炭の苦しみと共に生涯を過ごす事になるが、自分を責め過ぎずにあって欲しいと願ってしまう。弱かった慎太郎が不幸を背負わせる行為は、母に甘えたのだと思って欲しい。

一人のかけがえのない存在の欠落は、計り知れない悲しみと大きな空洞を残す。
それを忘れるのではなく一緒に生きようとする決意は、とおとく、眩しいのである。

シリアスなお話だがエチシーンはちゃんとある。
昌典の一番辛い時期に欠落を埋めた実の温度が伝わってなるようになった感ではあるが。
実の方は最初から好きだったよね。
終盤のは構図もエッチい汁だく。覆ってしまうボカシだったのは残念。
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