コントラスト
」のレビュー

コントラスト

itz

繊細な描写が素晴らしい。

ネタバレ
2021年12月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ とても綺麗な絵に惹かれ、itz先生の作品の初読みとなります。
多感な思春期の焦燥感や、不安などの心の機微を繊細な描写で見事に描かれています。それぞれの葛藤を乗り越え、自分の思うままに、自分らしくいられる相手に巡り逢えた二人の恋が、美しくもあり清々しい。小さく生まれた淡い感情が、徐々にはっきりと形を成し、恋に変わるまでの過程が素敵でした。翔太と陽の恋に関して、素晴らしいレビューが沢山ありますので、私は少し違った視点で思う事を書いてみようと思います。

この先は、ネタばれとなりますので、作品の未読の方は閲覧にご注意して頂けましたら幸いです。

恋模様のラストを飾る結びの章は、大抵、二人の幸せなラブラブな光景を写し出すものが多い中、結びにこれを持って来るのか…と、驚きとある種の感動を覚えたのです。
陽の中学生時代の親友が、ゲイである事を心ない言葉や行動で傷つけた過去。その彼との偶然の再会と、傷つけた側の目線で語られる思いを描いたラスト10ページに、心が震えました。
若さ故と、簡単に一言では片付けられない言葉の暴力。彼にそうさせてしまった自分を嘆く陽が辛かった。失くしてしまった大切な友。それは傷つけた彼も同じように、愚かな過ちで大切なものを失ってしまったのです。悔やんでも悔やみ切れない後悔と自責の念に駈られながら、忘れずに過ごして来たのでしょう。切々と語られる悔やむ思いが胸を刺します。決して、彼を擁護するわけではないけれど、陽を傷つけ、傷つけた自分をもまた傷つけて。
お互いにとっても辛い再会ではありながら、交わす言葉に刃はないと思います。敢えて謝罪の言葉も口に出さない。罪悪感から逃れたいなら、謝ることも手段ではあるけれど、許されずに一生抱えていく覚悟に、心からの償いが表れているような気がしました。
あの時に戻れたら…理解出来なくても、寄り添う事が出来たなら…
久しぶりに交わした言葉に、精一杯の寄り添う気持ちが見えたのは私だけでしょうか。「幸せになれよ。」と心で陽に語りかけた『友』の言葉が胸に響きます。
不意にハラリと涙がこぼれた自分に驚きました。このラストの意外性が、とても良かったです。
陽くん、翔太くん、幸せに。
ラストをこういう形に持って来たのは、まだまだ偏見の多い世の中に一石を投じる作者様の思いが込められているように思えました。とても感慨深い作品に出会えて良かったです。
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