世界でいちばん遠い恋
」のレビュー

世界でいちばん遠い恋

麻生ミツ晃

優しい世界に涙がこぼれます。

ネタバレ
2022年1月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 作者様買いです。麻生先生の心の奥底まで響く世界観に泣けてしまいます。
音の聞こえない世界を生きる五十鈴と、バイオリンの音を奏でる十嘉との運命的な出会いに、一瞬にして引き込まれました。
人に迷惑にならないように自立する意識が強くて、頼り方も甘え方も知らないような五十鈴。時として、他人の同情的な労りなどがしんどい事もあるかもしれないけど、偶然知り合った十嘉の特別視しない物言いは逆に楽かもしれないと思えました。友達の心配も気遣いもよくわかるので、少しくらい頼ったり甘えたりしてもいいかなと思うな…友達は嬉しいと思いますね。
五十鈴にとっては音楽の世界は遠いもののように感じてしまいがちですが、聞こえなくともその世界に触れてみたいと思う五十鈴のキラキラした目は、純真な子供のようで目で感じ、肌で感じ、音を空気の振動で感じ取る。決して自己の世界を狭めずに、自分に出来る事で楽しむ五十鈴がとても素晴らしいのです。十嘉と会話する中で見せる屈託のない笑顔が、とても柔らかでチャーミングで、温かい気持ちにしてくれます。会話の口の動きを見逃さないように見つめる目も素敵ですね。自分なりに一生懸命な人はとても素敵だと思います。
音楽を続けながらも壁にぶち当たって荒んだ心の十嘉には、五十鈴の真っ直ぐさが眩しいかもしれないけど、だから惹かれていく気持ちもとても伝わって来て心がざわつきます。独学で覚えた荒削りな演奏スタイルは、その道では難しいものがある事は十分に痛感してる事だと思うし、焦りや苛立ちもよくわかります。五十鈴と接するうちに、自然と変わり始めていく十嘉にはまだ希望に繋がる道が開けていくようで、それが嬉しいですよね。
友達関係の枠を越えないように、気持ちを抑える十嘉には少し辛いけど、二人の心が寄り添いながら距離を縮めているのは確かな事だと思います。意思の疎通のない空間は、多くの人の中にいてもとても寂しい孤独を感じます。五十鈴の中の孤独と、一匹狼的な十嘉は、互いに心を埋め合うようで、やはり二人は出会うべくして出会ったのだと思えました。
二人の間に流れる穏やかな時間に癒されて、その優しい空気感が余韻として残ります。何故だかホロリと涙が落ちて、二人の幸せを願わずにはいられませんでした。
とても良い作品に出会えた事に感謝の気持ちが溢れます。麻生先生、ありがとうございます。続きを楽しみにお待ちしております。
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