嘘解きレトリック
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嘘解きレトリック

都戸利津

面白い!!探偵物ー特殊能力者の苦悩、安住

2022年1月30日
事件続発だと疲れるから、配分が大変読みやすい。日常の合い間に時折事件発生。
よく探偵物は、探偵が行く所で事件が起こる、動かなければ平和だ、と皮肉を言われるが、本作は後手後手とは言えず、彼は事件全容の事後説明役でない。

尚2014/5と15/1月の3,4巻が、「ミステリと言う勿れ」(田村由実)の2021年発行の8-10巻とかなり似ている。
昭和初期の光景、レトロモダンのビジュアル、服装や町並みの描写が雰囲気たっぷり。お食事処「くら田」や商店など庶民の毎日から、園遊会や夜会などの中流以上の暮らし描写まで、目で楽しめる。
絵が丁寧、眺めすがめつ、かつ謎の解明の演出に一工夫もふた工夫もなされて物語展開スムーズ。中身の濃い「嘘」の考察についてが深みを更に与えていて、堅固な構築に唸る。
幸せにする嘘、不幸にする嘘。嘘の正体。背景、動機、波紋、あらゆる嘘を採り上げる。同時に、信じるとはどういうことか、という表裏を成す様なものとの対照が素晴らしい。人によって正しさの範囲も違う。「疑う」と「信じる」とが相容れない二者択一の性質であると言い切れない点を捉え、ドラマ作りの才が光る。
疑いながら信じ、嘘の中にホントウを見出だす。耳に聞こえるものだけではない。理由、状況、様々だからだ。
「(嘘によって)傷つく人を放っておけない」嘘が判る特殊能力者鹿乃子と、頭の回転の速さ故に善意を「ウラがあると邪推されてしまう」才人左右馬の、相補うコンビネーション。だが共通するのは、二人ともその能力が、他人に居心地の悪さを与え、人間関係作りに苦労したこと。
嘘が判る「不幸」を背負って育った鹿乃子、目端が利く才能を持て余しつつも利用に回って探偵業という「適職」に就いた左右馬。当初は鹿乃子の救済に視点があったが、彼自身もやっとしっくりはまるパートナーを得たのだ。
人って面倒なものだと、嫌気も持ち合わせながら、人の面倒さをも洞察して突き放しきれず解決に導く左右馬に、傷ついてきたくせにそれでも純粋に真正面から当たっていく鹿乃子。判じ合わせたように二人は似た者同士であって対の者同士でもある。そして自身は正直者の鹿乃子。48ー49話の視点チェンジとても良かった。

嘘をつくのは社会性を持つ高等動物故だといわれる。
犯罪捜査ではポリグラフがあるが、登場時期を考えると、時代設定はここにも効いてる。
それにしてもクリスマスが昭和初めにもうあったとは!
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