このレビューはネタバレを含みます▼
月村作品の中でもこの作品は別格かもしれません。丁寧に作り込まれ、描かれる世界にどんどん引き込まれました。
大好きな草間さかえ先生のイラストもぴったりです。
ネグレクト家庭で母1人子1人、寂しい子供時代を過ごす芙蓉が小学校で出逢った「良い家庭の子」の転校生西澤。
愛のない母親の元を離れ、東京で下宿屋を営む祖母の家に引き取られた芙蓉。
6年半後、大学入学のため祖母の下宿屋にやって来たのは西澤でした。
芙蓉が暮らす祖母の下宿屋というのが昭和レトロな庭付きの古い家屋。芙蓉が庭に咲く野草を大事に思うのは、今も西澤から借りたままの図鑑を大切に読んでいるから。
西澤から借りパクした「植物図鑑」に載っている草花しか知らない芙蓉。ここの描き方ですよ。胸が痛くなります。
雑草のような惨めな自分。雑草のように打ち消しても蔓延る恋心。芙蓉という名すら親にとって自分は「不要」なのだと自嘲し生きてきた主人公。
ざっくり言えば同級生再会もの健気不憫受け執着(スパダリ?)攻めと括れるのでしょう。
が、彼らが心惹かれて心通わせていく過程が細かな描写で紡がれてれいくので、エロい力技とは違うときめきがある。
前半の芙蓉が健気であればある程後半の西澤家の庭のシーンが生きてくる。
萌えというのは不思議なものですねえ。
生きることに不器用な言葉数の少ない芙蓉と似たもの同士の祖母の関係も好きです。
どうか皆幸せになってねと願わずにはいられない。