雪の妖精
」のレビュー

雪の妖精

芹澤知

何度も読み返したくなる素晴らしさ。

ネタバレ
2022年2月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 『秘め婿』の美しい世界観に魅了され、次の新刊を楽しみにしていました。デビュー当時から唸りをあげるほど高い画力でしたが、益々完成度は高い。あらゆる全てのものに一切の手抜きを感じる事はなく、細かなものまで精巧に、緻密に、繊細に、そしてリアルに再現されていて敬服するばかりです。しんしんと降り積もる雪景色、白鳥の飛び立ち、丹頂鶴の舞い、ふわふわとした冬毛の雪の妖精、宝石のような猫の目……どれもが度肝を抜かれる素晴らしさで圧巻です。これらを見れただけでも、価値のある作品に出会えたと思えました。もちろん、人物像も美しいし、物語が素晴らしいのは言うまでもありません。
真冬の凍てつくような寒さの白銀の世界を舞台に、心が温まる優しいラブストーリーに癒されます。
北海道育ちの春樹が出会った動物写真家・成美との穏やかに育まれた恋心に、ドキドキしながら読んでいました。
雪深く閉ざされたいつもの変わらぬ景色が、誰かと一緒にいるだけで違った景色に見えるのは、心に灯りが灯ったように思います。初めは少し警戒心のあった春樹も、徐々に雪解けとなるように、ゆっくりと固い心が解けていくのがじんわり伝わって来ます。少しずつ縮まってゆく二人の距離感にドキドキ。
大切な人を奪ってきた冬の季節を好きになれなかったはずが、大切に思える人を手離したくないから、冬の長さを望み、待ちわびるはずの春の訪れの気配を寂しく思う気持ちが、とても胸に響いて来ました。それでもう十分好きなんだよ。長居して別れを惜しむ成美もまた同じ気持ちで、私の中でBGMが鳴り出しそう…
お互いに惹かれあって、こっそり撮る写真。写真が撮る人の心を映す鏡であるなら、想いを込めて撮った写真は本当に言葉のないラブレターのようです。
なんだかとてもロマンチック。
どんなに寒い場所にいても、帰る場所は温かい君の居る場所で、「ただいま」「おかえり」と言える幸せに包まれた二人の恋がとても素敵でした。
抱き合って、温めあって、キスを交わす二人が幸せそうで、エチは一切ありませんが、これはこれで良かったかなと思います。確かにエチを見たかったし残念だけど、心と心の繋がりを描いた作品に大満足でした。 Nothingエチの場合は、脳内補完するしかない(笑)。攻め受けを想像してみたり、とろける甘さや予想外な激しさだとか勝手に妄想するのも、1つの楽しみ方か?いや、やっぱり視覚的満足は必要かな。
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