3番線のカンパネルラ
」のレビュー

3番線のカンパネルラ

京山あつき

3番線のカンパネルラに会って欲しい

ネタバレ
2022年2月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大げさに情緒的でも扇情的でもないこの作品に心が震えて温かく寂しくじわりと沁み入りました。
宮沢賢治の作品をなぞらえてと言うのか、主人公加納の人生の一部分をロマンチックに描いていると思いました。
加納が自分を叱咤し慰めまた叱咤し反省。ぐるぐると当てもない銀河鉄道の乗客のようです。
高校生をカンパネルラと呼びますが、また高校生も彼自身の列車に乗っていて加納はふらりと乗ってきた乗客。もしかしたら加納もカンパネルラになり得るのかもしれません。
作中で店長がそのように語っているシーンがあります。ロマンチストだなぁ。

加納が心の中で呟く言葉のひとつひとつがあまりにもに普通で切なく、心から愛おしく感じます。
誰しも自分に期待するけど些細なことで絶望もするでしょ?私も絶望の洞穴ならたくさん持ってますもの。

恋する心が絶望の淵にあった時、高校生カンパネルラとのあてどもない旅が心に残ります。高校生カンパネルラのただそこにある優しさや温もりがいつも少しだけ顔を上げる力になる。名前も知らないのに。
そんな風に人と関わることが出来るなら、なんでもない日常が銀河鉄道の美しい夜に思えてきます。
あー。私も店長のロマンチストがうつったかも。

大人が恋人を作るには幾重にも期待と後悔が重なりますが、少し開いた胸元や無造作にシャツがまくりあげられた腕に触れたいとお互いが思った時、2人だけの時間が流れます。
そのシーンの切り取りの素敵なこと!

沁みる作品だなぁ。
登場人物にもセリフにも流れる時間まで沁みました。
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