チェーザレ
」のレビュー

チェーザレ

惣領冬実/原基晶

稀にみる傑作。最後まで描いて欲しかった。

2022年3月14日
星10を星5まで減らした評価です。稀にみる傑作で、興奮して読み進めていたら急に途中下車を迫られたような惜しさが拭えない。チェーザレと銘打っているけれど大学時代のみで終わってしまい、副題の「破壊の創造者」の創造も破壊もまだ成されていない。まだまだ萌芽の段階。若くして戦死したチェーザレ、恐らく最初は最期まで描けるという構想であっただろうと思う。最後は先生も納得の終わりということがインタビューを読んでわかったけれど、それでも、導入からここまで緻密に完璧な描き方をしたがゆえに終わりまでは辿り着けないというアイロニックな未完の傑作であるように思えてならない。
ここまで口惜しい気持ちのレビューになってしまったけれど、それでもなお、世界中の方にこの作品を勧めたい。ルネッサンスのイタリアを舞台にしながら、日本を誇る漫画だと思う。個人的にはその時代の政治的な動きやキリスト教支配層内部の思惑、協会と貴族の依存と軋轢なども、かなり勉強になった。平和のためにはどんな人間が必要なのか?どんな権力が必要なのか?その人間をどう選出すべきか?現在にも通じる問題を提起している。理と知の違いなど哲学的にも深い内容に触れていて、中世から近代への過渡期らしさも感じられる。この魑魅魍魎とした価値観が渦巻くなかで生まれた、ダヴィンチやミケランジェロなどルネッサンスの芸術的な名作、そして数々の立派な建造物。イタリア旅行で、圧倒されると同時にどこか人間のおどろおどろしい業に触れるような得体の知れない怖さを感じたけれど、この漫画を読んでいるとそれが無理もない気がした。
絵も美しく、時代考証に基づいた緻密な画は崇高なほど。チェーザレも、オリジナルなキャラのアンジェロも魅力的。ドラマ性も高くて徹夜してでも読まずにはいられないほど惹き付けられました。
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