明け方に止む雨
」のレビュー

明け方に止む雨

草間さかえ

す~っばらしい短編集です。

ネタバレ
2022年4月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 良かったぁ。すんごい良かったです。面白かったですよぉ。短編集ですが、どの作品も深い!謎めいた空気感に引き込まれて、読みごたえのあるものばかりでした。流石のストーリーテラー・草間さかえショーです。
一組目の話は、裁判所の事務官・山田が持った隣人・高天に対するある疑惑。その疑心暗鬼が、読んでるこちらも(どうなんだ?)と引き寄せられてドキドキです。次第に触れる人柄で、高天に対する印象や、罪悪感が生まれて行く気持ちの変化がよくわかります。高天の言う『正しい人』は山田の誠実で真っ直ぐな心を指すと同時に、優しさも感じているように思います。とにかく山田が可愛い気のある人で、アニメの歌をイントロから歌うって笑ってしまいました。そんな山田だから惹かれるのもわかる気がします。一つの疑念が導いた恋の誕生。お見事でした。
二組目は表題作で、山田の同僚で書記官・里村の物語。自死した弟の真相と足跡を、刑事・結城と追うことで浮かび上がる事実。
現場で発見した弟の自筆のメモをとっさに隠した結城が一瞬不可解でしたが、読み進めると見えてくるそれぞれの背景にすごく納得出来ました。この二組目の話の中でも「正しい」という言葉が使われていますが、結城が正しくあろうとするという事は…
刑事が証拠を隠すという重大な事は、職務よりも里村が受けるであろう衝撃から守ろうとした事の方が重要なことだったのでしょうね。
弟が死を選んだ原因は、弟自身も誰も悪くない。けれども、里村は自身を責める気持ちがそうさせたのか、自分を罰するかのような結城との行為が、理解するのが難しい思いでした。それとも、自分の身をもってして弟の性癖を受け止めようとしたのでしょうか…
哀しい話ではありますが、そこは草間ワールドなので重苦しくないちょっとライトな部分もありながらの展開でした。きっと、結城はメモは隠し通して、里村の心を救っていくのだろうね。いつの間にやら手中に落ちてるお互い同士、なんだかいいな。
あとがきで、里村が山田事務官を可愛がってる理由が『疑似弟』とあり、なるほどと大納得。弟を大切に思っているんですねぇ。
三組目は異国の絵描き。祖父のせいで孤独に生きる絵描きアーサーと、その絵と絵描きに魅入られる青年ジョゼの逃避行物語。運命のような二人の恋も良かったし、アーサーと少年ポールの年月を越えた絆が素敵でした。出来る事なら再会して欲しかったですねぇ。
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