涙雨とセレナーデ
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涙雨とセレナーデ

河内遙

スリリングな明治40年体験

2022年5月30日
幼い頃に出会った二人が再会するのだが、100年の隔たりでの特殊な邂逅。二人の感情の通わせ合い方は、互いにそれなりの訳アリ展開、「くっつくくっつかない」のオチを早く見たい人には向かないだろう。ラブストーリーは好物だが、本作は他の要素も話を盛り立てているため、この進み方で私は十分楽しめている。

絵は、人物には麗しさより濃い肌感や太め描線での素朴さが印象的、逆に河内先生の作風とはこうなのだな、という確立した雰囲気で一貫している。ただ顔は、少しブレがあって、同一人物にしては厳しいかなというコマもあるにはあった。ビジュアルは、私の趣味には合っていないが、大丈夫、それに人物以外はむしろ丁寧に背景が入っていて、そっちは期待以上なくらいだ。
いろいろとつい日高ショーコ先生のBL「憂鬱な朝」を思い出してしょうがない。

タイムトリップのことが分かっている人物の絡ませ方も工夫があって、今後のその人物の変わり方をどう見せてくれるのか、期待大。
未完結物は原則回避してきたが、その自分の制限を外して読み始めてしまった。2巻無料期間に読んで中断出来なかったのだ。1巻から最新刊9巻まで読んだところ。
あとがきによれば、3、4巻の頃、打ち切りを宣告されかかったとか。そこから変に破れかぶれな巻きが入ったことにはならず良かった。
長編の中には、無理矢理な引き延ばしが作品のたるみを招いて、こんな長くしない方がストーリーの力を保てたのに、と感じるものが多々あるが、それとは一種正反対なカンフル剤となったのだとしたら、喜ばしい。
悪人として登場しても長編の陥り易い傾向として、善人に転ぶことが珍しくないが、キャラは、その役割が後に変化するとしても、納得的な推移を期待したい。それが本作は比較的不自然ではない方だと思う。

これなら「関根くんの恋」もいずれ読もうという気持ちになる。
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