雪原の月影
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雪原の月影

月夜/稲荷家房之介

これはすごい

2022年6月4日
壮大な物語。完璧な終焉。皇太子を廃された何も持たないエルンストが、何もない国であるメイセンを、飛び抜けた智力と人としての魅力だけで建て直していきます。何手も先を読み、人の心を自分の思うところに着地させるエルンストが、ゾクゾクするほどかっこいい。清濁併せ呑む為政者のエルンストの「清」の清冽さと、「濁」の底知れぬ闇のバランスが素晴らしい。この作者ならば最期の命の果てまで描き切るだろうと思ったら、やはり物語はそこまで描き切っていました。最期の場面は涙せずにはいられないですが、この作者のすごいところはそこではなく、「タージェスと白金の小袋」というBL要素ゼロなのに、これが読みたかったと思わせる閑話をいれてくるところ。その閑話の「陛下、旅を終わらせてもよいでしょうか?」と夜空に語りかける場面、あれはすごい。何ひとつ悲しいことは起こっていない希望に満ちた場面なのに、涙がとまりませんでした。今までこういう場面を脇のキャラにやらせる物語をBLで読んだことがない。クオリティの高さがうかがえます。冷静で明晰な頭脳をもつエルンストが、愛しいガンチェのことになる時だけ、毎回突然アホになるのもクセになります。
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