静かな筆致で描かれる胸に迫る物語





この作品は工場夜景というタイトルからは予想もつかない展開をする話だ。表紙の男の子と女の子の淡い恋の話かな?というところまでは合っているのだけど、ある出来事がきっかけとなり、その関係が変容してしまうのだ。
あなたは悪くない…と人から言われることはあっても、自分から自分は悪くないと言うことが社会的に許されない人がいる。そして作中で「沼」と表現されているが、その渦中に突然巻き込まれて、最初は耳も目も口も塞がれた状態のようになってしまう様子を、そしてデジタル化社会の中で、いつまでその状況が続くのか、見通しがいつまでもつかない様子を的確に表しているように思えた。同時に、一体そうやって息をひそめて生きている人々がこの世の中にどれだけいるのだろうと思い浮かべて想像した。
そんな中、作中の彼の人の振舞いは、渦中の中、何が正しいのか分からなくなってしまう環境の中、光の指す道標のようになったことだろう。そして、最後に再び登場する工場夜景。人により構成される社会に翻弄されたその人にとって、人が意図せず作り上げた美しい光景はその出来事の前後を問わず変わらないものの象徴でもあり、沼から見上げた道標の象徴ともなり得たように感じられたのではないか。テーマと無関係のように思える工場夜景をモチーフにした作者の手腕が光る。
作者の決して扇情的に描かず、抑えた筆致ながら、真摯な登場人物の描き方が、自然と登場人物に感情移入させ、自分ならどうするか、と押し付けがましくなる考えさせられるのも、この作品の良いところだと思う。
そして、この作品の救いは、ちゃんと理知的に物事を考えられる人々が現れ、未来への希望を抱けるところだ。
突然、この作品の誰かに自分がなってしまう日が来るかもしれない。この作品を読んだ読者が渦中にいる人々に出会ったとき、この作品を思い出すことがあれば、と思う。

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