掌の花
」のレビュー

掌の花

宮緒葵/座裏屋蘭丸

互いが互いに手放せない花

ネタバレ
2022年7月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ タイトルである「掌の花」の意味が練られていて良かったです。聡介と菖蒲、両者にとって互いが「掌の花」。その上菖蒲にとってのそれは、聡介のそれより格段に強い執念と、昏い支配欲求が込められていることに背筋が震えました。
シリーズ前作の「掌の檻」と構成は似ていますが、登場人物の個性によってまた異なる雰囲気となっています。前作では、数馬は雪也に囲い込まれ2人で堕ちていくところまで描かれましたが、今作ではまだそこまで至らない平和な状態で終わるので、いずれ聡介が堕ちきるだろう未来が想像できるだけ恐ろしさが増します。菖蒲にとっては人生をかけた長期計画ということでしょうか。
そして、前作の執着攻め・雪也は家庭環境など後天的要因が人格の歪みに拍車をかけた節がありますが、今作の菖蒲はその出自も特異ではあるものの、境遇にはさほど影響を受けておらず、先天的に歪んだ気質が関係していそうです。雪也が不遇のソシオパスならば、菖蒲は生来のサイコパスでしょうか。一見すると典雅でありながら心の内に激しい嗜虐心を秘める様は、ハイコンテクストな京都弁とも相まってより一層の狂気を感じさせます。そんな、ギャップに溢れた菖蒲の独自が際立っていて魅力的でした。聡介は堅物という設定のわりに男性同士の恋愛や受け入れる側になることへの抵抗が少なく、意外にすんなりと菖蒲に籠絡されてしまった印象ですが、それも菖蒲の放つ妖気とも言える色香のせいなのかもしれません。
聡介の叔父の賢次郎もキャラが立っていて素敵でした。彼のエピソードももっと知りたかったです。
そして何よりタイトルにも関わってくるテーマ、指フェチですが、美しい手の描写が多くあって嬉しいです。とても表現が多彩で、美しい手指とキーワードである「花」を絡めていたり、菖蒲の名前にも意味があったりして様々な伏線には脱帽です。
濡れ場も切羽詰まった興奮が伝わってくるようで熱情的でした。作家さんの特徴なのか攻めの言葉遣いが柔らかく、言葉責めに幼い言葉を使ってくるのがいじらしいです。男前な受けに対して「俺だけの可愛い子」と呼ぶのがたまりません。
前作から引き続き座裏屋蘭丸先生のイラストも素敵で、中性的な攻めの容貌がイメージ通りで心を射抜かれました。
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