このレビューはネタバレを含みます▼
弁護士の杉村翔太は大学の同窓会で、学生時代をずっと一緒に過ごした親友の山中悠真が結婚するらしいと聞きます。もう10年以上前、悠真と通っていた喫茶店を訪れた翔太は当時と変わらずに置いてあるノートに徒然なる想いをしたためます。入学式での出逢い、取っている授業が殆ど被っていていつのまにか一緒にいるようになり、それが心地良かったこと。そして2年が過ぎたある日、悠真は翔太にキスして好きだと告げてきたのでした。しばらくして悠真は一度だけと言い、翔太はそれを受け入れます。その一度きりでまた友人に戻った二人でしたが、悠真はパティシエを目指すと言って翔太に黙って渡仏してしまったのでした。それきり連絡の途絶えた悠真のことを、翔太は喫茶店のノートに書き出すことで当時の自分の心情を冷静に振り返ります。50頁の良質な短編です。本当に気の合う親友という土台の上に始まる身近さのリアルと、いつのまにか手からこぼれ落ちてしまった取り返しのつかない後悔とが、10年という歳月を経て懐かしくほろ苦く描かれ、それが明るい未来の出発に変わります。