このレビューはネタバレを含みます▼
とうとう読みました。3巻まで読むべきというレビューがチラホラ…何度も試し読みで止めてた私は本当に馬鹿でした。
りんご農家のほんわか夫婦のお話…ではありません。
あらすじに書いてある、親を知らない夫。りんごと育った妻。2人を語るのにこれ以上の説明は必要ないかも。
愛がある結婚ではなかった。なのにいつの間にどうして2人はこんなにも強い夫婦になったのか…。
まずは1巻読んで欲しいです。
以下ネタバレあります。(良かった所を反芻してるだけ)
その土地に根付いた神の禁忌を犯してしまった雪之丞。
ファンタジー?…いやただ50年程前の昭和の田舎の雰囲気と北国の厳しい冬、ほの暗く閉鎖的なイメージがそう思わせるだけかも。
雪之丞同様そんなことあるわけが…という気持ちを拭えないまま読み進めることになります。
…このお話紛れもないファンタジー。その事に愕然とするのは、既にストーリーに没入しているから。
あまりに大きな自然の前で人間には為す術もない。
ただ奪っていくだけではない、そのあまりある恩恵を受け生きていると実感しているからこそ抗えない。
この夫婦が雪之丞が戦おうとしているのはそういう相手。
捨て子だった生い立ちゆえ、作り笑いが得意で穏便に済ます事だけを考え生きてきた男のはじめての戦い。
変えたのは飾らない朝日の言葉かな、わははと笑うその笑顔かな。
思い起こすと1巻からのエピソード全てが何かに導かれてひとつの結末へ向かっている気がする。
だから2人の何気ないひと時が愛しくてしょうがない。
どう抗ってもエンディングへ進んでしまうという不思議な感覚。
読んだ人それぞれに違う印象がある最後だと思います。
私は決してバッドエンドでは無い、寂しいけど幸せな終わり方だと思った。
無力なんかじゃなかった、朝日は雪之丞を生まれながらの孤独から救った。
ひとりで生まれたのが運命だったと、そんな心底悲しい考えを断ち切ったんだから。
夫婦の強い愛に震えた。
この作品全体から感じる怖さは誰もが感じた事がある怖さ、自然を前にして抱く畏怖の念。それをリアルに感じました。田舎住みだから余計かな。
しかし人間が愛する人を想う力も負けていなかった。その土地で誰かを守って生きていく為、だから土着信仰というのが今もあるんだろうな。
はい、ボロッボロに泣きました。凄く力のある作品!出会えて本当に良かった!!田中先生に感謝です。