ハッピーマジカルNIRVANA
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ハッピーマジカルNIRVANA

絵津鼓

憑依させる系作家さまに身を任せて得る幸福

ネタバレ
2023年1月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読む時に相当な覚悟が要る作家No.1の絵津鼓先生(私的に!)。新刊即購入し読むのを逡巡するも一週間。果たせる哉おのれの全部を持っていかれました。読後の自己はおよそ消し炭でしたよ。。

憑依系俳優とはよく聞きますが、絵津鼓先生は憑依させる系漫画家だと痛感しています。
序盤からじわじわ侵食されていく感覚に身を任せる快感は何にも代え難いです。
そうこうするうちに主人公、澄春が恋に落ちた瞬間に出くわします。手元のコマ、澄春のアップ、大悟のポートレート。あとはテキスト・テキスト・テキスト…なのにそれだけで、震える両の拳をまぶたに押し当て慟哭のように押し上がってくる感情に呻き声で蓋をしている自分がいました。
あの量の文字が、文字だけで身体に沁み込んでくる、そんな漫画家は本当に稀有です。
さらに、このたった2ページを境にして大悟を「好き」の重みと辛さが100倍増しになっていました。あとは先生の思惑に乗っかってぎゅむぎゅむするばかりです。……

おじいちゃんの摩訶不思議な道具たち(ドラ◯もん的なw)。それをためらいなく受容れる愛すべき住人たち。悪意が何ひとつ見当たらない優しい世界。
それらを『涅槃』という概念を持って俯瞰するような読み心地でした。
涅槃は天国のように幸せなところなのか?あらゆる煩悩を断ち切ると言う意味ではそうなのでしょうが。
しかしまだ生きて息をしている者にとっては、たとえ苦しくとも様々な感情を受け止める義務があるように思います。

あの不思議ペンが無かった事にした気持ちは煩悩(嫉妬や執着などネガティブな感情)だったのだと思いました。
まるで年越し蕎麦を食べて新しい年に持ち込まぬよう煩悩を断ち切るように。
普通の恋愛譚は、その煩悩をベースにして切なさを表現しているものが多いと思います。
しかし敢えて取り去った後に生まれるドラマが、こんなにも胸を打つとは考えも及ばなかったです。
それがきっかけで色々と動く展開と心情と行動の一つ一つが新鮮で、どんどん彩りを増していきました。
この素晴らしい作品には続編有りますか?ありがたいですね。
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