ひとりで夜は越えられない【単行本版】
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ひとりで夜は越えられない【単行本版】

松基羊

どの夜も二人で乗り越えて

ネタバレ
2023年2月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 敗戦後、アメリカ軍に統治されている日本が舞台で、今で言うPTSDに悩み不眠症である青年・征こと征四郎と、祖国アメリカでゲイであることを隠し生きてきたジムことジェイムスのお話です。

米軍(昔で言うメリケン人)も通うバーでバーテンとして働く征は、たくましく生きようとする女性らに感心しつつも、友を見送った防空壕の中から気持ちが抜け出せない日々を送っていた。
そんな中、仕事場で何故かメリケン人から尻を狙われ辟易としていた征に一目惚れしたジムから声をかけられる。「バーテンだから!声かけるならキャストの女の子にしな!」と言うものの、流暢な日本語で懐に入ってきたジム。人にあらずと叩き込まれてきたメリケン人と関係を持ち、必死に生きようとする女性たちのように、汚泥の中でもがく今から脱出したい征はジムの恋心を利用して「俺たちもカップルになるか?」と告白してみるが…という流れですが。

BL大好きクラブな皆さんが集まるBLジャンルですからブロークバック山(検索避け)とか、昔のアメリカにおける同性愛に対しての作品・文献をご覧になられている方も多くいらっしゃると思うので、ジムの覚悟の深さに思うところがあることでしょう。
しかも、恐らくジムも出自が良い。征以上に高等教育も受けてるんだろうと思う。しかもジムにはもう肉親がおらず、使用人と雇用主という風で渡米…………最後、まさに駆け落ちで船の中、まるで新婚旅行かのように蜜月を過ごす2人に、どうかこのまま、二人が死を別つまでそのままで居て欲しいと願わずにはいられない。
これから、英語もさらに覚えて、征の人となりも理解されて仲良くなってくれる人もいると思う。でも、それでも、友や家族を日本人によって奪われて傷が浅い社会に身を投じ、時に帰国したくなるような出来事もあるだろう。時に踏み絵のごとく、意に介さぬ事をしてまでも隠さねばならない事態も起きると思う。

どんな夜でも必ず朝が来ることに、骨身に染みるほど解っている社会に今一度、踏み出そうとしている二人に心の奥底から祝福を送りたい最終回でした。

結構序盤から、ジムが見たゲイの青年がどうなったのかとか、征とジムの温度差が一緒になるのは渡米後になってからだろうとか…もうこれからを考えると感情がグチャグチャだったんですが…2人で幸せな老後を送ってくれな…が素直な気持ち…50歳くらいになったら訪日してキャッキャしてくれな…幸せにな…
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