ひとりで夜は越えられない【単行本版】
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ひとりで夜は越えられない【単行本版】

松基羊

この時代におけるゲイの境遇について

ネタバレ
2023年2月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 戦後、高度経済成長期に向かって爆進していく一方でまだ戦争の残穢を引きずり、敗戦の様相が色濃く残っていた時代。米国において同性愛は禁忌とありますが、日本も同じだったのでは。征のような士官の家で同性愛者が出たら「腹を切れ」とまで言われかねない状況で、自由を求めて愛し合う元敵国同士の2人の姿は切なさと苦しさを内混ぜにしたような不遇の恋だったかと。
ですがその辺りの葛藤はあまり伝わって来ず、この時代の同性愛があらぬ目で見られるどころか殺されかねない悲壮感は感じられません。米国に渡ったとして、どこの州に行くのでしょう。州によってかなり差があるでしょうが、この時代に好意的だったところは無かったことでしょう。人々は2人のただならぬ空気をすぐに嗅ぎつける。2人の状況は今以上に過酷で苛烈なものになる…その壮絶さが幸か不幸かあまり伝わってこない。そこはきちんと書いてこそ胸に訴えるものが増すと思います。
ただ、若く愛し合う2人は美しく、見惚れるばかりでした。
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