エゴイスト
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エゴイスト

高山真

優しい嘘

ネタバレ
2023年2月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 青い青い、映画ポスターが印象的で興味を持った作品。作者さんを存じ上げず、その自伝的小説であることを知ったのも全部、この映画がきっかけだったのだけど…原作を読み終えた今、劇場でこの作品を観る自信がなくなってしまった。
小説で、文字で、こんなにも心が揺さぶられるのは久しぶりのこと。読みながら自分も、浩輔と龍太、龍太の母親と一緒に過ごす。物語の中で生きた彼らが体験したこと、交わす言葉、季節までもがありありと目に浮かび感じられる。そんなリアリティを伴った日常とドラマに頭は占められ他のことが手につかないのだ。映画評では、まるでドキュメンタリーのようだと言うのだから尚更だろう。
モデルとなった彼らがもう既に他界しており、本当に物語として語られるしかなくなっていることが、辛くて哀しくて。浩輔の、相手を気遣わせないためについた優しい嘘の数々が、却って相手を損なわせ、浩輔自身をも苦しめることになったのも辛い。
でも、全編を通して愛に満ち溢れている。決して陽気な作品ではないけれど、愛に生きた人たちの姿が描かれている。
タイトルにあるエゴイスト、作者である高山氏は、主人公(自分)の取った行動がまるでエゴイストのそれだと書かれたようにみえるけれど、自身の経験を振り返ってみても、他者との繋がりにおいてエゴが存在したことがないと言える人間なんている訳ないだろうと思うよ。だからこそ、浩輔、龍太それぞれの母親との関係に、また浩輔と龍太の母親との関係に、涙が止まらない。たまらない気持ちになる。
ごめんなさいや、ありがとうという言葉が、薄っぺらでなく本当に必要とされる言葉になっており、そこにも言葉の力を感じた。

政治的なことを書くつもりはないのだけど、巷で取り沙汰されている法案を巡ってのあまりにも無神経な発言、心ない暴言。浩輔たちはどう思うだろうか。

2/22追記
映画を観ました。映像と音、言葉の重なりなど、映画ならではの良さが際立つ。原作では表されていない部分を描いた良さもあり、逆に十分ではなく誤解を与えるのではないかという部分もあり。
宮沢氷魚くんのピュアさ、阿川佐和子さんのナチュラルな演技も貫禄の柄本明さんも素晴らしかったけど、鈴木亮平さんの浩輔は、表も裏も浩輔、という圧巻の演技。
私は原作を読んでおいて良かったと思いました。映画を先に観た方はより大きなショックを受けたかもなぁ、って思います。
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