「す」のつく言葉で言ってくれ
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「す」のつく言葉で言ってくれ

高野ひと深

胸の奥底に残るこの重いモノは何だ?

2023年4月13日
この読後感はカバー絵や作品紹介からは全く想像できませんでした。胸の中がかなりの質量と重力で息苦しいです。独特な表現をする作家さまだと思います。

高野先生の作品に対しては「読む」と言うより「味わう」とか「嗅ぐ」言った方が正しい気がします。一等初めに立ち昇る匂いがずーっと最後まで続いていると同時に、2番目に来るのは全く相反する香りです。2つを同時に味わいながら最後にズドンとした消したくても消えない強烈な何かを残し、自分だけさっさと舞台から降りてしまうような潔さもあります。
別の表現をすると、コミカルタッチで覆われたシリアスな過去が根深く刺さって現在に多大な影響を与え続け、実は溺死寸前なのを何とか回避した感じ、とでも言いましょうか。

先に「つらなるステラ」を読んでいたのですが、その中の「逃げなずむならよる」が衝撃的でした。もちろん大好きな作品です。今作はそれに似たカラクリで描かれていると思いました。
原因と結果、その因果性が切ない。切ないでは言い表せないくらいにどうしたらいいかわかりません。
最後はハッピーエンドで着地しているにも関わらず、最終話を読み終え次ページをめくって目に飛び込んだ「鈍色の日々」と言うタイトルと乙坂の横顔で心拍数が跳ね上がりました。だってやるせないに決まっているじゃないですか!?
この扉を入れてたった12ページの短編が実に秀逸です。絵で、コマ割りで、言葉で、どんどん重く積み重なっていきます。本編最終話の着地点をただのハッピーエンドにさせない強さを持っていると思いました。

同時収録は幼なじみモノで最後は前を向いて進むお話ですが、やっぱり割り切れない切なさがずっと心に残りました。

あと後書きで、知人Aさんがおっしゃったこと、わかりますw 先生、そういうところです〜でもそこが大好きです!もっと先生のお描きになるBLを読んでみたいのでぜひお願いします、
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