異刻メモワール
」のレビュー

異刻メモワール

るん太

星のまたたきにも似た「回想」

2023年5月12日
1巻191、2巻223、3巻237ページ。
現実ではつらいことの多かったであろう少年トモがリツと出会ったことで紛れ込んだ異界での様子が描かれた、空想ファンタジー。
かわいらしさの間に不気味さも共存する、エスニックな雰囲気あるデザインセンス。異形の住人や植物や小物の描き込みも細かく、眺めているだけでも満足感が高いです。妖精、飛行、料理、星、そしてともだち。素晴らしい。
時折見えるトモの心の傷や不安を、天真爛漫なリツがあたたかく包み、トモの心と一緒に読者の心の栄養も蓄えられていくようです。
この物語は「異刻」であり「メモワール」であり、いつか必ず来る別れの予感が通奏低音のように流れています。そしてその透きとおった哀しみの上に描かれる笑顔の日々は、たまらなくきらめいているのです。たとえ星より遠くなっても。
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作者の本業はイラストレーター。この作品は、コマ割りを横方向のみ(基本1ページ4コマ)にすることで、漫画的演出を控えめにしてイラスト的描き込みの強みを活かした画面構成になっています。それがまた良い。往年のシネスコサイズの映画を観ているようでもあり、懐かしさある雰囲気がよく合っています。
表紙のカラーイラストは幻想的な雰囲気が強いですが、本編のモノクロ絵は土や草の匂いがたちのぼるようで、それもまた良いです。
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2024年10月、完結につき追記。この作品、なんだか異様に波長が合っているようで、トモの過去のつらい気持ち、二人が仲良く楽しそうな様子、自分のことを話すトモの数少ない言葉、終盤にリツがトモに向けているまなざし、それらすべての何気ない描写にずっと涙が滲みます。
だいじょうぶ、だいじょうぶだよと、トモに、そして自分に語りかけるように、これからも何度も読み返すだろうと思います。
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