このレビューはネタバレを含みます▼
宦官と言えば、家柄を問わぬ立身出世のため、男性が息子を断ち切って官職に就くという、なぜそこまでするのだろうか、と前々から興味のあった人々。セールを機に、ヒール役の傾国の宦官と、皇帝の弟CPの本作を手にしてみたら、互いに素性を知らずに惹かれ合った2人が、素性が分かってしまうまでのスリリングな展開や、敵対するはずなのに惹かれて止まないロミジュリのような緊張感に引き込まれ、中国王朝内の愛憎劇に没頭していました。宦官のグエンの気高さと賢さ、一方で皇帝の弟泰山の前では、悪態をつききれなくなってしまう脆さを見せる様が好みでした。宦官とのエチとか、宦官同士のそれとか、泰山の雄み溢れる姿とか、ちょいちょい刺激的場面があるのも面白かったです。
最後、皇帝を含めた三角関係がどうなるのか、もストーリーを引っ張っていましたが、意表をつかれる展開で無事決着したのも印象的でした。
そして話の間に挟まれる宦官の人生や王朝にとっての位置付けの解説も面白くてためになります。宦官は、生殖器官を失い、親不孝者とされ、地元には帰れず、お役御免となっても普通の生活に戻れない。そんな、優秀でありながら、我が子を抱けない人々がある王朝では十万人もいた、という解説にそんな役職=仕事のためにのみ、人生を捧げる無数の人々が人生の終焉でどのような思いを抱いたのか、や、他に行き場所を失った宦官に依存する王朝との共依存関係に思いを馳せ、物語の背景を深く理解でき興味深く感じました。
現代では宦官こそいないものの、同様の手術を受けることを受け入れざるを得ない人々がいるのですよね。心と身体の性が一致しない場合に、法律上の性別を心の性に合わせるためには、性別適合手術を受けなくてはならないのが日本の現状。でも、身体に負担がかかり、生活の質が低下するおそれもあることから、国によっては、手術は必須ではないとか。そんなリスクもあるのに、結婚や、心の性と一致させるために手術を受け、身体的不調を抱える人、リスクが怖くて踏み切れない人もいるとか。何の為に、手術を課し、その結果何を失わせているのだろう。そんなことまで、この作品を通じて考えました。人としての尊厳を回復するためとはいえども。 もしかすると、宦官にとっても不遇を嘆くよりは、人としての尊厳の回復の為の手段だったのかもしれない…あぁ、人間って、人生って奥深いなあ。