どうしても触れたくない
」のレビュー

どうしても触れたくない

ヨネダコウ

傑作とはこういうもの

ネタバレ
2023年6月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 非常に後をひく読後感。15年以上も前に描かれたとは到底思えません。

「どうしても触れたくない」のは嶋の外川に対する”好き”という明確な気持ちであり言葉でしょうか。
経験とセクシャリティと性格と、その全てが枷になっている嶋。自分と一緒になるよりも、外川にとってきっと「理想的な幸せ」がもっとあるはずで、外川を想うからこそ選べるのならそれを選んでほしい。けれど外川からの気持ちも拒めない、苦しさと切なさ。

外川は過去があるからこそきっと自分の幸せや欲求に対して素直で、それゆえに嶋を手放したくない。知れば知るほど可愛くて仕方ない、恋しく思う嶋が、いま生きて目の前にいるのなら後悔はしたくないのでしょうね。

嶋の言う通り過去は捨てられないけれど、外川の言うように生きてさえいればなんとかなるもので。

両者がそれぞれ相手を想うあまり、違うベクトルで不器用に恋をしていて、不器用であるがゆえにお互いが傷つけあい、でも最後に傷つくのは自分で。読んでいて胸が苦しくなりました。
外川の置いていったタバコをふいに見つけて崩れ落ちてしまう嶋の姿はもう涙なしに見られません。
それでも最後には嶋も外川も「幸せだ」と思えて本当によかった。
外川の嶋に対する嫁呼びを素直に受け入れる嶋。やればできるじゃないのっ!!

1冊にまとまっているとは到底思えないほどの満足度が得られる傑作だと思います。
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