ひとりで夜は越えられない【単行本版】
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ひとりで夜は越えられない【単行本版】

松基羊

愛のあるぬくもりこそ最高の良薬

2023年7月11日
戦争のトラウマから一人で眠ることが出来ないキャバボーイと優しい駐在米兵との恋のお話。
とにかく、ジムが賢くて優しくて誠実ないい男です。征の打算的な一面もPTSDに苦しむ一面も、全てを理解して彼を受け入れ、いつでも真摯に愛を注ぐことで自分の気持ちを伝えようとする真っ直ぐな姿勢が、征の心を動かし本物の愛になる過程はとても素晴らしかったです。征はずっと自分の心に寄り添ってくれる人を無意識に探していたのかなと思います。
ただ、ちょっと設定が甘いかなと思う部分もありました。戦争直後であれば、日本人とアメリカ人のカップルというだけでも偏見や差別が凄まじいのに、男同士であればもっと大変なはず。ただでさえ征の家は軍人家系だから、仕事だとしても米兵と親しくしていた息子は勘当同然なのではないだろうか。また、二人がアメリカに渡っても日本以上の厳しい人種差別の中、本当に幸せになれるのだろうかとこちらが心配になってしまいました。その辺はリアリティさはあまりなかったと思います。また、何度も出てくる栄吉は征にとってどんな存在だったのかはあまり言及がないのも気になりました。トラウマになるほどの親しい関係の割に下地が描かれないのは残念です。
とはいえ、二人が愛を育む様は見ていて微笑ましく、優しく心に響きます。実際に愛というのは、人種や性別関係なく人と人がきちんと向き合うことで生まれるモノであることを教えてくれているような気がしました。愛の本質を知る素敵なお話です。
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