聖なる黒夜【上下 合本版】
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聖なる黒夜【上下 合本版】

柴田よしき

おもしろかった、 及川もっと読みたい

ネタバレ
2023年7月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 誰が殺したのか、過去に何があったのか、そして二人はどうなってしまうのか、それが気になってぐんぐん読んでしまった。痛み、憎しみ、絶望とあきらめ、負の感情がたくさんつまっていたけど読むのはつらくなかった。
刑事の麻生とヤクザの愛人練を中心とした、愛憎渦巻くミステリー。現在と過去の複数の事件、からまりあう人間関係、それと同時に描かれる麻生と練の距離感の変化。物語は過去と現在を行ったりきたりしながら展開されて、謎が少しずつ明らかになっていく過程がおもしろかった。

過去よりも現在の練という人物が、がんばってイメージしようとしてもなぜか私の中に明確な像が浮かびあがらない。不思議。強烈なのに曖昧、つかみどころのない人物のように感じた。そこもおもしろさだったように思う。上巻ラストの方は泣きそうになった。

韮崎は歪みまくって恐ろしい、でも愛された。恋に落ちるのに明確な理由なんてないし、恋愛感情が錯覚だというのはよくわかる。たとえ錯覚でもそれでいいというのもわかる気がする。

私が一番興味を持ったのは及川。彼はどんな思いで麻生といたのか、非常に想像しがいがある。彼の大学時代とか、その後麻生が結婚するまで続いた及川と麻生との関係ももっと深く読んでみたかった。及川、切ない、彼には★10。

登場人物の一人ひとりが、奥行きを感じさせる書き方をされていて、抱えている思いや歩んできた人生を、思いめぐらしたくなった。

正しい事とは?善い事とは?裁かれる罪、裁かれない罪。
ある出来事のおかげで助かった人間もいれば、それのせいで死んだ人間もいる。
読んでる間何度も答えの出ない問題を突きつけられた。

本作男同士の濡れ場もしっかり登場する。でも官能をかきたてる、というのとはちょっと違った。これは批判ではなくて、私はどこか冷静に、なるべくしてそうなった行為を見ているというような気持ちで読んだ。

「一生 かけさせてくれるか?」のセリフ、この間合いみたいなものがすごく好き。ラストシーンの空気、情景がすごく好きだ。

ぐさっときた一節:「大人として金を稼いで生きるということは、矛盾とうまくつきあうということ」、なんて嫌な言葉なんだろう、だってほんとその通りだから。

いろいろと胸いっぱいになるシーンが多いが、とにかくも麻生と練のその後が非常に気になる終わり方だった。
及川主役のスピンオフも熱望する。
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