BLACK BLOOD【単行本版】
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BLACK BLOOD【単行本版】

琥狗ハヤテ

この優しい世界の外側に広がる闇が気になる

ネタバレ
2023年7月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ アンドロイドのどこまでも人間に近づいても、人間でないことによって生まれる切なさに惹かれる身として、サイボーグものの魅力ってどんなところにあるんだろう…そんな気持ちから、本作を読んでみました。
主人公のイーサンは、軍事用サイボーグとして、脳と脊髄以外は、全て人工物の表紙の通り異形の存在。
地球外惑星で出会ったミハイルに好かれ、戦争で忘れていた人間としての心を取り戻していき、生体であるミハイルとの恋に落ちていくストーリー。軍用サイボーグは顔を含めた生体部分の殆どを人工物に置き換えているけれど、あくまでも人間であり、人間と同じ権利が認められ、誰も人外扱いしない優しい世界。
絵も美しく、世界観の構築含めて高水準。高評価がつくのもよく分かるのです。
けれども、読んでいて少しずつ違和感を感じてしまい、違和感がピークに達したのはイーサンのイーサンを部品として付けて喜んでいる場面でした。

かつて人間としての身体を持っていたイーサンならば、新しくつける喜びの前に、なぜ自分は、子孫を残す可能性を失い、戦後の人間としての喜びを放棄して自分の身体を人工物と置き換えることを受け入れたのか。まず再び人を愛することになったときに、その後悔が先に生まれるのではないの?
彼らが元々、自分たちと同じ人間で、感情の起伏は軍事用に抑制されているとはいえ、脳があり、心があるのならば、早まったことをしてしまったことに対する内省や後悔の念に襲われるのではないかと思うのです。
しかし、そのような疑問が生まれる気配がない。ということは、この世界では、軍人になったら、脳を国に捧げて身体も顔も捨て、戦闘用に最適化された人口物に脳をはめ込むことを受け入れるのが当然という教育が施されてきたのだろうか。
そう考え出すと、この作品で描かれている平和な世界の外側には仄暗い闇が広がっていると思うのです。
人外ものの異形である自己の存在に悩み、苦しみながら、光を見つけるまでの切なさを愛でるのが性癖。そのような身からすると、イーサンが自分も生身の身体を捨ててしまったことが、心又は社会的障壁となって、一度はミハイルを諦めようとするけれども諦めきれず外側の世界の闇と闘い、愛を勝ち取る…という一ひねりが入ったならば☆5超えの傑作だったかと。
自分の性癖の輪郭を知ることができた印象に残る一冊。個人的な感性でのレビューですみません。
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