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スペシャル

平方イコルスン

少し変な日常コメディ……だけじゃなかった

ネタバレ
2023年8月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 転校生の葉野さんと、いつもヘルメットをかぶっている怪力少女の伊賀さん。私達の住む世界とは少し異なる世界が垣間見える中、珍妙な脇役達もまじえて繰り広げられる日常コメディー。そしてたいへんにまっとうな、少しずつ近付いて積み重ねていく友情もの。
設定は、どこまでが彼等にとって「普通」なんだろうな、と探りながら読んでいく感じで、かつ読者に向けた明確な説明はありません。変わった世界で変わったキャラクター達がいたって当たり前に日常を過ごしていくこの感じ、私は大好きです。女子同士の会話、男子同士の会話も、言ってることややってることは「変」な気もするけど、自分達もこんな感じだったよな、っていう、大切なくだらなさがありました。ガソリン大好き藤村さんがお気に入り。
あと、大西さんと谷くんが、幼馴染の身分差恋愛で、ものすごく良いです。エモエモ。
……で。3巻までで少しずつ開示されていた不穏要素が、4巻で炸裂してめちゃハード展開。
そしてラスト。ちょっ……ちょおぉーーーい!ちょっと待ってええぇ〜〜〜!!と叫ばざるを得ない……。けれどもこの作品が「葉野さんと伊賀さんが一緒にいた間の出来事」として描かれたのなら、あそこで終わるのが妥当で、かつあそこで「終わってしまう」のがもう切なくってしょうがない。
私達の知らない作品世界の常識はわからないまま、大人達の思惑もよくわからないまま、怒涛の中に投げ込まれた子供達の必死な感情に揺さぶられました。
この作品世界はあくまでフィクションではありますが、私達自身の世界だって大した差はありません。自分の体験できる狭い狭い範囲の中で、その外側にあるぼんやりとした知識を「常識」として、時に暴力的な大きな外部の思惑に翻弄されて、それでも自分に手の届く精一杯の努力をするしかない。
ゆるく別世界を楽しんでいたはずが、シビアな現実を突き付けられる。なかなかにしんどい読後感でした。
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