同志少女よ、敵を撃て
」のレビュー

同志少女よ、敵を撃て

逢坂 冬馬

戦争は甘くない 平和は軽くない 憎悪とは

ネタバレ
2023年9月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 今まで私は戦争を知らなかったと判った。認識不足を改められる戦争物小説。大空襲の記憶の町に生まれ育った自分は、いろいろ読んで知った気になっていたが、敵を憎む、という気持ちの根源を想像してきてなかった。加害者被害者という単純な図式では表しきれない幾層もの交錯した人々の、簡単には拭い切れないこだわりや取り戻せない過去の日々への想いが、渦巻いて出口は容易に見いだせず、なお国家が意思を持つように組織的に大義が掲げられる。逃げられない。戦うことをやめることがない日々。そして終戦直後の人々のあり方。
銃後を守るなどといった生易しさを脇目に、自ら戦場に身を投じる女たち。しかもその動機がいかなる物であろうとも、男性からも疎まれる。

読んでいて、気の休まらない戦場に居るかのように、少しも主人公達の穏やかな生活を描写せず、重火器知識ばかり膨らまされて、エピローグまでは息をつけなかった。

ヒーロー物とは訳が違う。
これは、戦争物。何処にもぬるさがなくて、口で言う、所謂、戦争の悲惨さ、という表現が白けて受け止めてしまいそうになるほど。
現場の苦しみ悲しみ辛さ恐ろしさ感情の麻痺や高揚、夢中で駆け抜けてきた者達だけの世界を、すさまじい臨場感で教えてもらった。

今の私たちは学校で学ぶ現代史も頭に入れながら、私たちはともすれば、どちらか一方の視点で語りがちなもの。その一種教科書的な論点を乗り越えて、何処かで俯瞰、または、相対的な見方、そして、善悪二元論では言い切れないものも包含した、これは、戦争の姿を自分ごとのように窺い知ることの出来る、希少なフィクション。
作者のお力あっての書なので、この書で、作者の、深い知識と察知の眼、徹底した冷静な分析力をしっかり味わった。
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