猫、恋に焦がれる
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猫、恋に焦がれる

阿部あかね

喰えない男2人が見せる心の内にホロリ

ネタバレ
2023年9月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 新作が出たと知りつつ、スルーしそうになっていた猫シリーズ。フォローしている方のレビューでを俄然興味が高まり、読んでみたら、やられました。
なんせ、前作を読んでから時間が経っていたせいか、本作の表紙を見ても「地蔵面の予備校講師と毒キノコ」くらいのワードしか出てこなかった「喰えない男」という印象の2人。それが、詩郎に至っては、凪だった心が、将太に懐かれて初めて心のザワメキを覚えてその気持ちに向かい合って行く。将太は、ビッ チ中のビッ チとなった原因に向き合うこととなり…若年時に欲望の対象となることで自尊心が低下し、自分=汚いものとなって自傷的に性的逸脱に走り、被害者なのに加害行為を過小なものとして扱うことで心の均衡を保ってきたが…という過程が今回描かれてて、思わず泣いちゃいました(>_<)
どんな悪人も生まれた時から悪人なわけじゃない。と、子育てしながら何度思ったことか。
可愛かった赤ん坊が足を踏み外したとき、逸れた道を進んでしまうか、軌道修正できるかは、周囲の人間が、その子を信じて愛してあげるかにかかってる…そんな風に思ってきた身に取って、詩郎の将太にかける言葉が、簡単に「愛してる」とか「好きだ」とか言わない分、実感がこもっていて、将太を愛情で丸ごと包み込み、将太の自尊心をも引き上げていく姿に痺れました。頭が切れて日頃他人に弱みを見せずに生きてきた人が内面で抱える繊細さをチラリと見せる姿にめっぽう弱い自分にとって、詩郎という人物は、ハイスペックなのに人間らしい感情を持てないことに悩んだりと何とも魅力的で、将太に執着するにつれ発する色気に完全にあてられました…。作者様、普段メチャクチャ口悪いのに、愛らしい関西人を描くのが本当に上手。一気に過去作に遡って読み直し、やっぱり心の柔らかい部分のチラリズムを感じるこの作品が一番響きました。レビューに感謝です!
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