ハッピー・オブ・ジ・エンド
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ハッピー・オブ・ジ・エンド

おげれつたなか

死と隣合せの男が見つけた人が生きる意味

ネタバレ
2023年10月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 完結した3巻発売当日以降、この作品を評するのにふさわしい言葉を探しているのに中々思い浮かばず、呻吟する中、ふとしたたり落ちてきた言葉が「人は愛に生き、愛に死す」だった。

自分にとって何とも魅力的なのは、美しく気高い容姿を持ちながら、生い立ちと母に見放されたことで地獄を見たハオレンの美しいながらも哀しみを帯びた眼差しの表現と、ふとした瞬間に現れる過酷な過去から形成された愛に飢え、それゆえに一度は死んでもいいと思った者が持つ死と隣り合わせの感覚がもたらす危うさだ。
光がともることのない暗い瞳。幼い頃に受けた無償の愛の想い出を大切に胸に抱きつつ、いつしかそれが無縁なものとなってしまったことを淡々と受け容れているかのように思われたハオレンが、千紘と過ごすようになって、瞳に光がともり、優しい笑みまで浮かべるようになる表情の変化。それを圧倒的な画力で描き出すたなか先生の絵は、彼らが血肉を持つ人物であるかのような感覚を伴わせ、彼らに感情移入させ、その生き様を知りたいと思わせる力がある。

そんなハオレンが抱く闇は深く、外国人で国籍もなく、普通の学校生活を送ることもできず、親から犯され、売られ、生き場所を得るため人を死に追いやり、逆に自分も死んでもいい存在として扱われ、身体中に残る無数の傷痕。現実の社会で起きていることの縮図である。しかし、ハオレンのようなまっとうな精神の持ち主にとっては、まさに生き地獄であり、PTSDを引き起こして当然の出来事だろう。ハオレンの中の小さな子がハオレンを見つめ、マヤが千紘に害をなした時に彼が最も後悔したのは、当時自分が逃げ出せば、そこまでマヤと行動を共にせずとも済んだのに、守るものがなかったために自分で自分を諦めてしまったことなのであろう。

ハオレンがマヤを刺した瞬間、彼は千紘を守ったのと同時に過去の自分との訣別をつけたのではないか。その後の逃避行でハオレンが幻聴、幻覚に怯える様はリアルでいつ彼が死に取り込まれるか気が気でなかった。しかし、愛する者を守るために別れを決意したその笑顔は、一緒にいられなくても千紘が自分らしく生きてさえくれれば、という愛のために生きる決断をした美しさに満ちていて。その後のお互いの一途な思いと再会…。ひりついた感覚と対極にある甘美さに酔う読後感。これを味わうための暴力描写なのだと納得。素晴らしい作品との出会に深く感謝
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