このレビューはネタバレを含みます▼
分からないんである。
恋人同士でピアスを開け合う感覚が。
痛みに弱い身からすると、自分の嫌なことは、好きな相手にして欲しいことと繋がらないのだ。
BL作品で、ピアスをお互い開ける描写を見かけたことはあったけれど、その意味を主題にした作品は存外少ないと思う中出会った、ピアスを好きな相手に開けてもらった側の目線で描いた「モイストヒーリング」。高校生の甲斐が好きになってしまった柊先生に卒業式に開けてもらったピアスホール。その後の先生の自分に気があるのかないのか分からない態度に翻弄されながら、甲斐は、いつまで経っても耳たぶを触ってピアスホールを完成させない。そうか。彼にとっては、柊先生への恋は叶うと思えない痛みを伴うものなのだ。だから、耳に残る痛みに、そこに傷を付けた先生への恋情を重ねているのか…と、ハッとさせられた。
この甲斐と柊先生CPは3連作になっていて、柊先生目線で描かれた「ピアスホールをあけるとき」で、ミステリアスだった先生の秘めたる心情が分かる仕掛けが良い。こちらには、好きな相手のまっさらな身体にピアスホールという小さな傷を遺す側の思いが綴られている。
もう一つ良かったのが転校生の西野と、西野の席に少し前まで座っていた百枝との間の儚く切ない前後編。机に書かれた交換日記のようなやりとりを経て、学校で限られた時間しか会えない彼らの間に育まれた思慕が実に切ない。そこにいると感じている西野と、姿を見せず、でも存在していることを示す百枝。それぞれの気持ちを考えると、出会えて良かったと思うけれど、西野にはやはり痛みが残ったのか。
作品の形を問わず、その作品に触れることで、日常では分からなかった自分という人間の内面を知ることができる作品は印象に残る。その意味で、本短編集は、恋愛と痛みが、感情的にも、身体的にも連動して相通じるものなのだ、という自分にはない感覚を教えてくれた印象に残る作品だった。しっとりとした作風ながら、恋愛の持つ鈍い痛みが伝わる作品作りのうまさが光る。