このレビューはネタバレを含みます▼
あの事件によって可視化され、注目を集めた宗教二世の存在。
非常にデリケートな問題をBL作品として切り取り、登場人物の複雑な内面と非日常の世界における出会いを描いた稀有な作品で、強烈な印象を残す作品だ。
主人公は、宗教二世として育ちながら信仰とは距離を保ち、厭世的な雰囲気を背負った高校生の学人(まなと)。信仰に染まり切っていない彼の目線で描かれるため、共感しやすく、親が信仰した新興宗教のために信者が集まる山奥の学校に引っ越し、その戸惑いを追体験する感覚が面白い。
そこで彼が出会う教祖の「お子」である天珠(てんじゅ)の美しさが際立っていて、宗教がかっているかと思えば、学人にだけ見せる素の表情が妖艶かつ魅力的!
しかし、その閉ざされた空間で学人が回想する一般社会と自分を育む親との乖離に、引き裂かれる思いをしてきた彼の心理描写がなんとも胸苦しい。
学校行事、治療行為への教義の介入。子ども心におかしいと思っても、自分が頼らざるを得ない親へ疑問を口にすれば、信仰が足りないと責められ、良い成績を取ったら教祖のお陰と喜ぶ親。そんな風に、我が子すら信仰に対する忠誠心を競う道具として見て、自分自身を見ない親と接するうちに、一般社会に居場所がなくなり、かといって自分の家ですら安息できる場所ではないという彼の生きづらさが、ひしひしと胸に迫る。
自分が信仰したわけではない宗教の教義に従えば楽に生きられるかもしれないが、それで自分自身の人生を生きているといえるのか。そんな、宗教二世が抱える心の葛藤を少ないコマ数で凝縮して描く描写は見事。
そんな葛藤を抱える彼が、お子である天珠に、自分と会いたいと言われて流した涙には、初めて自分自身を見てくれる存在に出会えたとまどいと喜びが表現されていて、宗教二世の生きづらさとその救いをBLで与えた作者の感性の鋭さに心から嘆息したのです✨
その後怒涛の展開の後のラストは、自分には衝撃的…ここは評価の分かれるところで…。私には、精神的平衡を保っていた彼が罰として施された行為はトラウマを引き起こす類のもののはずで、傷ついた人の行く末があの姿となるとは思えず、それまでの心理描写の濃密さから一転して、エッジの効かせ方重視になってしまった印象が。それで☆を減らしたものの、独特の禁忌感にBLらしさを感じる、一度読んだら忘れられない作品でした