君の夜に触れる【単行本版】
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君の夜に触れる【単行本版】

もりもより

ありがとう…読んでてこちらが救われました

ネタバレ
2024年3月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 心の優しい殺し屋の千夏と盲目の佳澄さんの物語に完結表記があったので、孤独な2人の救済物語に、どのようなお話が加わるのだろう…と思って手にしてみました。

最初に広がるのは、千夏が生まれた頃の家族に見守られた温かい記憶。
目が覚ました千夏の前にいるのは、佳澄さんで。
佳澄さんが、千夏の心の中のぬくもりを引き出している描写に胸がキュッとします。

そして、兄の七回忌を佳澄さんと一緒に迎えようとする千夏の周りに、見え隠れする千夏の父の影。
千夏の父といえば、家族の情で千夏を縛り付けて人を殺める道具として扱い一家に悲劇をもたらした張本人。普通に考えたら、人としてしてはならない所業をした人物で人格的にとうの昔に破綻していてもおかしくない存在かと思うのです。

しかし、この番外編で父は、そっと兄に詫びるかのような足跡を遺して立ち去り、これまでの自分の人生を悔いているようにも描かれていて。

千夏にとって、唯一残された肉親で、自分のアイデンティティを形づくる存在。
その父を全否定してしまうことは、千夏自身を、温かい家族の思い出を傷つけることにもなる。
千夏が生まれた頃の温かい家族の姿からすると、もしかすると父自身も他人から強いられ、家族を守るために殺し屋となったのかもしれない…。そんなことを考え、併せて、千夏の父を完全な悪者に描かないところに、もりもより先生の千夏への愛を感じました。

ラスト近くで、屋台のお客さんに佳澄さんとの関係を問われ、千夏が真っ赤になって放った一言に、店内も読者も、心がぽかぽかに…!
かつて、いつ命が果ててもおかしくない風情だった千夏の幸せそうな姿に、胸アツです…。

家族に見捨てられて孤独だった千夏が、佳澄さんに出会い、恋人として再び家族を作ってお互いに再生してゆく救済物語にふさわしいエンドに、読んでいるこちらが救われました。作者様に感謝です✨
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