このレビューはネタバレを含みます▼
最初はなんてアブノーマルな話なんだ…と登場人物達の嗜好に翻弄されながら、次はどんなトンデモ嗜好が出てくるのかと楽しみにして読んでいたのに、いつの間にかまるでひと夏の恋のような繊細な恋物語になっていて、先生の描写力にひっくり返りました。
全巻を通して小島はずっと大門を試していて、試しながらも必ず彼が応えてくれないことを視野にいれているのが、小島の愛に対して抱える不信と臆病さが滲んでいて読んでいて辛い…。けれど安心して読めるのは小島が試している大門は普通の男ではないからなんですよね!冒頭の方ではネガティブな意味として使われていた訳の分からない不気味な“怪物”というワードが、最後の方になってどんな手を使ってでも愛し通すという頼もしい意味合いに転ずるとは!小島の複雑怪奇な頭の中を理解はできなくても何もかも許容してくれる大門は本当に小島に出会うべくして出会ったんだなと…。この根っからの優しさと気づけば心臓を握られているようなぞっとする面を持っているのが大門の魅力だと思います。小島は何もかもを掌で転がすことができるのに、いざ自分のこととなると途端に疎くなってしまうのが可愛くて!お互いに翻弄して翻弄されてを繰り返しているのがもうなんかお前ら一生やってろという気分にさせます。おじいちゃんになるまでね。
この漫画本当に温度差が凄くて、がんじがらめに悩んでいたと思えば、頭を空っぽにして相手に向かって走り出したり、一時足りとも目が離せなかったです。
メイン2人が最高なのはもう言うまでもないのですが、脇を固める登場人物達が本当に魅力的です。全員が自分のために、もしくは誰かのために必死で悩んで、選んで、最善の未来のために奔走しているのが愛おしくて泣いてしまいました。須藤さんマジでいい女過ぎる…幸せになって…。岩蔵~!安川さんとみよちゃんと幸せになれよ~!!
話の作り込みも緻密で「全部青」のシーンは全身に鳥肌が立ちました。BLもののはずなのにまるで本格ミステリーを読んでいるような気分になります。
今となってはもう取り返しの付かない過去や、変わりようのない現代の風潮を、どうしようもないこととしつつも前に進んでいく登場人物たちの姿が眩しいです。
死ぬほど紆余曲折七転八倒していたはずなのに、終わってみれば一本のあまりにも真っ直ぐで透明で綺麗な愛のお話しでした。