このレビューはネタバレを含みます▼
昨今読んだ作品の中でも素晴らしく、傑作だと思います。
ただ確かに低評価がある理由も分かる。受けは幾度となく悲惨な目にあって、前半4割は本当に痛くて辛い。その後も攻めから認められず、自尊心は粉々になります。でも本当に傲慢に育った人間は、数年かけてこれくらい苦労しなければ改心なんて普通出来ないでしょう。本人が罪なくいたぶられるドアマット系というより、本人がしでかした事や甘えていた事や知らなかった世の中を知り、痛みを覚える辛さは必要だったと思います。無知な王子が無事でいられる方がリアリティ無いと思いますし。
また攻めも、自身の境遇から受けの事を嫌い受けが改心し始めても認める事が上手くできず、愛し始めても手のひらを返す事も出来ない。でも心底嫌悪した人間が少し可愛くなったからといって、直ぐに態度を変える人より余程誠実だと思います。ただ初めての愛を認めたくなくて言葉選びは毎回最悪なので、受けが可哀想とは思いますが。
恋愛系ラノベだと、主人公格は悪いことをしてもちょっとの苦労ですぐに改心して人々から愛され、相手もコロッと好きになる作品が多いです。この作品は受けと攻め2人とも非常に人間的であり、葛藤したり傷つきながらも成長していくのがよく分かる素晴らしい作品でした。
また混乱の時代や戦争、きらびやかな貴族社会や調度品についての描写も、非常に丁寧で良いです。中世ファンタジー作品でありながら、リアリティを感じるほど。主人公たちを取り巻く人物も、いい人もいれば利己的だったりする人もいてリアルだなと。友達だからといって走れメロスのように皆命を賭して庇ったり守ったりする人達ばかりでは無い。己の立場もある、という。
非常に長い作品で、私自身速読なので作品によっては2-3時間で読み切れる単行本もある中、こちらは10時間程読むのにかかりました。それくらい壮大で、辛くて、混乱の世にあって、でもようやく結ばれた2人の物語を読ませてもらってとても嬉しいです。
一方作品として素晴らしいとはいえ、明るいシーンや主人公のカタルシスを感じるシーンは少ないので、読み返したいかと言われると少し悩んでしまいます。また物語を忘れた数年後にじっくり読もうかなくらい。
そしてラブラブな2人をもっと読みたかった、前半つらすぎたので。
それを差し置いても、本当に買ってよかった作品です。水鏡の件も最後触れて終息していて良かった。