このレビューはネタバレを含みます▼
無知で無垢で世間知らずで甘ったれで素直で純粋で可愛いね棗さん…。これで大学生、18歳になれるのだから、本当に大事にされてきたんだろうなと思います。ネットが駄目でも本を読んでいれば知っているだろうというようなことも知らないので、本ですらも検閲されて渡されていたのでは。恐ろしいほど幼気な彼ですが、一念発起して自立を決意、一誠さんに影響を受けて頑張り始めます。はじめてのおつかい見てる気分でした。転ぶことは失敗でも恥でもない、立ち上がることが大事と言いますからね。棗さんにはその根性がある。真っ直ぐで歪みないからこそがむしゃらな努力ができる。書いてて不安になってきました、棗さんには現実の汚い部分とか見てほしくないですね…、いや彼なら折り合いつけられるのか。応援したくなると共に、自分も頑張ろうと思える、勇気を貰える表題作でした。
もう一つ、俺のミスターへ、という上下編の短編が入っているのですが、めっちゃいい!これが本当によくて!一途で切実な恋愛の話で、それも好感ポイントなんですが、個人的に主役のお二人が一歩も引かず言い合える仲というのがよかったです。気が強くて自分を蔑ろにすることがない。鳴海さんが長い片思いをしているという設定だったので、鬱屈したような自意識の展開が入るかなと杞憂してしまったのですが、そこの片付け方も思いきりが良くてよかった。卒がなく堂々として見えた取手さんが、鳴海さんの心情を気にしてしおらしくなったり、顔を赤らめて必死になっているの見たら、ああ…ってなりますよねえ。自分の思いは自分だけのものなのだから、誰に文句を言われることではない。