このレビューはネタバレを含みます▼
お伽話の人魚姫みたいな始まりからの、穏やかで丁寧に描かれた物語。新月の日にだけ島から港町へ来る青年イェンスと、人間になったものの行き場を失い港町領主の奴隷となっていた口のきけない元人魚のヴァン。二人は出会い、少しずつ心を通わせるのですが、その過程がとても丁寧で引き込まれます。何も知らないヴァンに手仕事を教えるイェンスの優しい教え方と、全てを吸収するかのようなヴァンの純粋さがとにかく素敵。言葉では伝えられなくても、ヴァンの表情は実に豊かで愛らしいです。イェンスの提案で伴侶となり島に渡ってからの生活は、畑仕事やら料理やら、読んでいてワクワクが止まりません。島の風景や織物は美しく、お料理はどれも美味しそう。不思議なツバメさんたちも可愛いです。呪いについて全ては明かされず、物語はまだまだ序盤。距離感を測りながらの二人の関係も、どのように変わっていくのか楽しみです。りんごを分け合ったように、苦しみや悲しみも分け合い幸せに暮らせるようになるのでしょうか。今後の展開に期待しつつ、またひとつ待つ楽しみが増えて嬉しいです。