どくだみの花咲くころ
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どくだみの花咲くころ

城戸志保

沼にハマるとは

ネタバレ
2024年9月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ この面白さをどう表現したら良いのかわからないのです。面白いという言葉が陳腐に思えるくらいに。

主人公は自覚的な優等生、清水くん。人から妬まれたり嫌われることを一番怖れている。クラスで腫れ物扱いされ浮いている信楽くんとは距離を置いていたけれど、図工の時間に彼が作った作品に心を奪われてしまい、以降信楽くんのことが気になって気になって仕方がない。
小5にして退屈を感じていた清水くんが「信楽アート」を創り出す信楽くんという推しが出来て、目にギラギラと光が灯り、文字通り生き生きとし出すのですが、普段当たり障りなく何でもソツなくスンッとこなすだけに(元々オモシロ素養はある子なのよ)、推しを推したくて沼っていく様子が…もう、とんでもないです。
私は5話の「傷」というタイトルが好きです。好きなものを好きと信じ、言い続けていてもふと自信が揺らぐ瞬間があって、その自信に裏付けされていたものが芋づる式に崩れて行く様がリアル。蛙化ってやつですか。沼にハマったからこそ陥る別の沼。
清水くんが知った目の前の信楽くん…自分のことをおそらく初めて「わからなく」させてくれて、自分の望みに初めて気付かせてくれて、誰に言っても通じなくてさびしかったことも初めてわかってくれた、友人。それがすべてだと思うけど。それでも、その気持ち、わかるよ…。

1話の最後に清水くんが手にした「清水くん」(と思われる草人形)、見たくてたまらないけれど、それを見せないのが良いよね。試し読み勢の心を鷲掴み。
登場人物の苗字がみんな焼き物の名前なのもワクワクしました。
まだ1巻。クラスメイト(九谷さん好きだわ〜)との関係、先生や家族、大人たちとの関係、淡々とした日常のお話の中に毒があり優しさがあり、これからの2人の物語がとても楽しみです。
9/19まで20%OFFクーポンあり。
2022年講談社四季賞大賞受賞作品。
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