このレビューはネタバレを含みます▼
前作『ふったら〜』の 整が惹かれた和章を、この作品では正しく認識できたように思います。前作では和章もかわいそうだけど、そこまで感情移入できずにいましたが、『メロウレイン』の中の短編「in The Garden」を読んで、和章の内面を知りたくて、ずっと読まずにいたこの作品を読み始めました。
和章が、とげは刺さったままでも、新しい関係を新しく作っていけたことができて、やっと『ふったら〜』が完結した気がします。この作品で、和章も整との暮らしが、行き場のない絶望的な箱庭だと思っていたことを知り、どんなに苦しかったかと思うと涙が出ました。和章の人となりが、この作品でようやく分かり、不器用で純粋過ぎるゆえに、あんな形でしか整と暮らせなかったのだと思うと、整よりも辛かったのではないでしょうか。
本当に、不器用で頑なな潔癖さを持つ和章に、整のような人はミューズであったんだろうと感じます。だからこそ、二人の想いが通じ合って欲しかったし、ずっと大切に囲い続けた整と幸せになって欲しかった。でも、事故が起こってしまって、黙って整の気持ちを受け止めることができる和章なら、むしろ整も惹かれなかったのだろうし、別の形の別離があったのでしょうね。
和章のとげをつつむのが、柊のような子でよかったです。和章と同じように、純粋で心の綺麗な、でも放っておけなくなるような繊細な彼なら、たとえ和章が箱庭を作っても閉鎖されたままではない素敵な庭にしてくれると思います。
ずっと仄暗い影をまとっていたような作品ですが、とげは刺さったままでも、包み込むような人に和章も柊も出逢えたことが、静かな中にも幸せな余韻に浸らせてもらえました。
祖父や祖母、ひいらぎの葉の棘、その他さまざまなエピソードも味わい深く、どの断片を取っても前作に引けを取らない本当に素晴らしい作品だと思います。
願わくば『メロウレイン』の整と一顕のような、和章と柊のその後も読みたいと思うくらい、和章はまたまだ魅力的な側面があると思いますね。