もう少しだけ、そばにいて
」のレビュー

もう少しだけ、そばにいて

白野ほなみ

悲劇の中で、それでも人生が続く愛の物語

ネタバレ
2024年9月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ ただのBLとはいえない、なんと表現するのが正解なのかいまだにわかりませんが、作品に出会えて良かったと思います。

交通事故の後遺症や障がいと、自分の存在が大切な人の負担になってまで生きていくのが辛く、スイスで安楽死することも選択肢にいれている晴人と、自分の時間や夢を犠牲にして、それでもやっぱり晴人が一番大切な晃のお話です。
二人でいても死の選択肢があることが晴人の支えになっていることや、自分がいるせいで晃は夢を叶えることができないと思う晴人の気持ちもわかりますし、愛する人に死を選んでほしくない、一緒にいたいという晃の気持ちもわかります。
どちらが正しいとかそんなことはなくて、お互いに毎日の小さな幸せの中で、たくさんの苦しみも背負ってその日その日をこれからも懸命に生きていくんだろうな…と読み終わって思いました。
読み返して気づきましたが、最後に二人がいる国はスイスなんですね。
これは晴人が安楽死を選んだから一緒にいるのでしょうか…?
おじいさんになるまで安楽死を選ばなかった晴人が、このタイミングでこの選択をした理由は、痛みよりも耐えられないことがあったから、それは段々と晃との日常やこれまでの思い出を忘れていく自分が怖かった、何よりも晃を愛していることを覚えているうちに死を選びたかったのではないでしょうか。
もしそうなら、晃がいるからもう少しだけ生きてみようを繰り返して生きてきた晴人の最期の死への決断は、痛みではなく愛だったんだなと思いました。
死を選ぶことで守れる記憶があると思いますし、ここまで頑張った晴人に死を選ばないでなんて、それはもう自分のエゴでしかないのでとても言えません。スイスで安楽死したいと晃に話した時は、きっと晃が何と言っても覆るものではなくて、それを言うまでに沢山苦しんで悩んだであろう晴人を思えば、晃は微笑んで最期まで一緒に行くよと伝えたのかなと思いました。
どんなやりとりがされたかは二人にしかわかりませんが、最後に笑いながら晴人の隣を歩く晃の表情に、この二人の人生全てが表現されているのではないかと思いました。
本当にまるで映画のような、素敵な作品をありがとうございました。
ジャンルの垣根を越えて沢山の方に読んでほしい、そんな一冊でした。
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