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藤本タツキ

「なんで描いてるの?」

ネタバレ
2024年9月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ まずは作者さま、失礼ながら存じませんでした。本作試し読み段階で、かの有名漫画の作者さまだと知りました。そちらは未拝読のままですが、本作完読させていただき、今後私は作者さまの他の作品もたくさん読ませていただきたいと思っております。
さて本作ですが、読み終わり、ふと自分の実体験を思い出しました。4年前のコロナ禍のこと。自分が罹患して家庭内隔離で過ごしていた時に、一人きりでひたすら子どもの絵を描いていました。誰に見せるわけでもないけど、やりたいことがそれしかなかった。すぐ近くにいるけど、会えない子どもたちを、自分の脳内から呼び出して、とにかくそれに近づける作業を続けていました。
普段は描かないんです。だって疲れるから。一人だから描いた。会えないから描いた。会いたかったから描いた。ほんとにそれだけでした。
本作のクライマックス。藤野と京本が出会い、藤野が強がり(直後にスラスラ描いてたから、アイデアを寝かせていたのはホントかも)で言った漫画のネームを京本が受け取る回顧シーンで「じゃあなんで描いてるの?」…その答えをあの時の自分のに重ねてしまった途端、今更涙が出ていました。
以下は個人的見解です。京本は部屋を出なかった。だから放課後の学校も夏祭りも本人の既知感として薄いはず。でも藤野が見ているだろう世界を描いて擬似的でも共有したい、憧れの気持ちを表す京本なりの表現だったのかもしれない。対して藤野はみんなに称賛されたかった。それが、京本に対するリベンジ心で、称賛どころか批判を受けても研鑽に勤しみ、独断で白旗を挙げ幕を引く(その後他ならぬ京本の評価を得たことによって急浮上し、京本だけに見せるために、口から出任せみたいにでた話でのネームを、卒業式のその日にびしょ濡れのまま部屋直行で描くほど復活する)ような気持ちに変わった。きっかけの土俵は学年新聞掲載の四コマ漫画だが、当人達は平行線ながらお互いのためだけに漫画を描いていたのです。
道を分けてからも、京本は藤野のファンでい続けた。二人でいる時は背景専門だったのに、一人になって藤野を登場させた藤野節オチの四コマ漫画を描いていた。きっと、描きたかったから。藤野はこれからも漫画を描き続けていく。描く理由となる相手がいるから。勝手な推測ですが、作者さまご自身がそんな方のような気がしてなりません。
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